音の過去

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家出10日目……バイトを首になった。 次の日、11日目の朝、マリーに報告した。 「首?だってまだ……一週間じゃない?何したの?」 マリーは驚いて大きな声になった。 朝食を作り終えて、台所にある食事用のテーブルに並べた。 二人掛けの椅子の小さなテーブルだ。 「何したの…って言われても…。簡単に言えば、びんた。」 げっ…という顔をマリーはする。 「理由なくじゃないでしょ?何されたの?」 味噌汁を飲みながら、マリーが聞く。 起きてシャワーを浴びて朝ごはんがマリーの日課。 シャワーの後は、バスローブか、ロングTシャツの可愛い色合いの物。 マリーは凄くお洒落、バスローブもピンクとか薄紫。 「お尻触られた…。」 ご飯を口に入れて呟くと、マリーは吹き出す。 「ちょっと!女の敵!びんた当然!何で首なのよ!」 「お客さん凄く怒って店長が出て来て謝って、私にも謝れって言ったけど、嫌で拒否したら、またお客さん怒って、それで首にします。お代も今日は奢りますって。バイト料からお客さんの分引かれて渡されて、帰らされた。」 「ひどっ!!あの居酒屋、そういう話聞いてたんだけど、まさか本当とはね。やっぱり話を聞いた時に辞めなさいって言えばよかったわね。 あんまり嬉しそうにしてたから、言えなくて…ごめんね?」 「マリーのせいじゃないよ?頑張って我慢してたのが爆発した感じ。 注文取りに行くと、手を触られて、放してくれなくて、仕方なく我慢して注文終えても離さなくて、やっと逃げて、注文言うと店長が怒るの。 注文取るだけで何分掛かってる。客といちゃついてどうする。 見てたくせに助けもしないで…。 しつこくケー番聞かれて、メモ渡されたり、一度で頼める注文を何回も分けて呼んだりするの。その度に名前は?とか聞かれて、バイト終わりで出口の前にいたりとか、送るよーとか…もううんざりしてたし…。」 「はぁぁ………。凄いわね?」 マリーは感心して言う。 「凄いよね?居酒屋のバイトって辛いんだね?」 吹き出しそうになるのを耐える。 (分かってないのねぇ……。) 疲れた様子の音を見ながら思う。 白石蕗 音は、男性から見ても女性から見ても間違いなく可愛い子だ。 お嬢様だからか、物腰は柔らかで清楚、雰囲気も柔らかでイメージも優しい感じだ。白い肌もスタイルも細めで、胸は大きくはないが普通で、足は長くて細くて綺麗だ。黒髪ストレート、かぐや姫でも出来そう。 つけまもしてないのにまつげが長くて、大きなくりくりの目。 小さくて下唇がふっくらめで、テレビのスカウトが来ても驚かないと思う。 一応、同性?のマリーから見ても可愛くて綺麗。 マリーは音の、お嬢様なのに異様に細かい経済観念と、抜けてるところがお気に入り。 (こんな可愛い子を振る許嫁って、馬鹿ねぇ……。) ひじき煮を口に入れる。 音が来てから、パンとご飯、交互の朝食。 音の食事は美味しくて気に入ってる。 「マリー。ごめんね?今日、バイト探しに行くから!絶対、見つけるから。追い出さないで?お願いします。」 音が頭を下げる。 「馬鹿ねぇ?追い出す訳ないでしょ?こんな気の合うルームメイト、探そうにもなかなかいないわよ?部屋代なんていいから、貯金しなさいよ?」 「ありがと、マリー。でも、頑張って探すね?」 「うん、無理はしないでね?」 マリーの気持ちは有難いけど、もしマリーに恋人ができて、自分がいたら邪魔だと音は思っていた。 早く自立を、一人暮らしを、出来れば正社員を…。 少し焦っていた。
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