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その日、バイトが見つかるどころか、変な男に追いかけられるわ、バイトの面接なのに手を握られまくるしで、そんな所で働ける訳もなく、フラフラになり音は帰宅した。
「ただいま、帰りました。」
ヨロヨロと洗面所に行き、手を洗った。
「どうしたの?」
5時、マリーは出掛ける準備をしていた。
「面接受けて決まりそうだったんですけど、手をニギニギされて、ほっぺにスリスリされて舐められました。気持ち悪い…そのまま殴って逃げて来ました。」
「本当……狙われるわね?まぁ、分かるような気もするけど、優しい雰囲気だし、嫌とは言えないだろうと思ってやるんでしょうね…。」
マリーはため息を吐く。
「今までは?よく無事だったわね?」
洗面所から出て来て、ソファに項垂れる音に聞く。
「今まで?学校の行き帰りは運転手付きです。高校は共学でしたが、兄も颯も卒業生でしたから、許嫁の話は有名で…。短大は女子ばかりで、出た後は、家と習い事、颯の家の往復で、他の男性と会う機会はありませんでした。バイトって…凄く難しいですね。働く人を尊敬します。」
自分は駄目人間だぁ〜と言いながら、項垂れる音をヨシヨシとなだめる。
(完全なるお嬢様。父親と二人のお兄さん、許嫁にがっちりガードされてたわけね。これは辛いわねぇ…。)
頭を撫でながら、マリーは言う。
「音は、今まで父親とお兄さんと颯だっけ?彼にがっちりガードされていたのよ。今は誰もいないでしょ?だから男が寄って来るの。それもどうしようもないのばっかりね?だから気をつけて?いい?」
頭を撫でられながら、項垂れたまま、音は聞いた。
「マリーは、どうしてそんなに優しいの?そんなに親切なの?もう私、家とは縁を切ったし、お金持ちじゃないよ?」
「なぁに?私が音を誘拐でもすると思っているの?」
くすくす笑い、マリーは答える。
音は、ガバッと起きてすぐに否定する。
「思ってない!そんな事、少しも考えてない!」
マリーは少し驚いた顔で、音の頭を膝に乗せる。
「分かってる。音の家がお金持ちって話も誰にもしてないわ。だって危ないもの。ただでさえ、音、可愛いから男が寄って来るのよ?
私、本当に心配してるの。親が死んで一人になって途方にくれていたのを拾った……そう話してるわ。音もそのつもりでね?棄てて来たのなら、お嬢様も棄てるのよ?」
「うん…誘拐はされたくないし…。マリーに会えて良かった。
助けてくれたのがマリーで良かった。まだ短い期間だけど、私、マリーが本当のお姉さんみたいだと思ってるの。ほんとよ?感謝しているし、大好きだわ。」
マリーは照れてしまう。
お嬢様だからか、音は素直に愛情を表現する。
「ありがと。こんな大きな女に、お姉さん、綺麗って、差別なく言ってくれて嬉しいよ?私も音が好きよ?可愛い妹だわ、好きなだけここにいていいから。」
差別に苦しんで世間に揉まれて来たマリーには、音は綺麗で純粋で…本当に妹みたいに思えて、心配していた。
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