13日前、白石蕗

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IDカードがないから部屋の中には入れない。 最初の部屋まで入りノックする。 思った通り、中から奏が出てきた。 「おう!早いな?珍しい、ここまで来るなんて。」 「少し話があるんだけど。」 奏は部屋から出て来て、大きな部屋のコーヒーが置いてあるスペースまで歩いた。 「なんだ?」 「昨日、音の卒業式の後、お祝いで食事に行く約束してて、来なかったんだ。メールしたら具合悪いって。今朝はどうかなって。連絡つかなくてさ。」 「普通に朝飯食ってたけど?そういえば、昨日は夕飯食べてないって。 でも朝飯は食べてたよ?元気は…言われればなかったかな?」 「そうか。ご飯食べれるなら平気だな。良かったよ。」 「もういいか?」 奏は早く仕事に戻りたそうだ。 慌ててそれを止める。 「大事な話もある。親友で、音の兄のお前に聞いてほしい。」 「何だよ?早くしろ?」 笑いながら奏は答えた。 「俺…音との許嫁の約束、破談にしてもらおうと思ってる。 近いうち社長にお願いに行くつもりだ。」 颯の言葉に奏は顔色を変えた。 「はぁ?お前付き合ってる女なんて…。」 「付き合ってる。結婚を前提に…この前申し込んでオッケーをもらった。 ひと目惚れだったんだ。最初は気になって食事に何度か誘って、この人だと思った。音には申し訳ない、けど、妹だと実感したんだ。」 奏はきつい顔で颯を睨んだ。 「なぁ、俺さ、確かに言ったよ?高校の時。女は音だけじゃないし、許嫁だからって音一人に操を立てる必要はない。遊べばって。でもそれはさ、結婚してから浮気されるよりはいいし、遊びだからさ。男だし、そういうのも必要でしょ?本命作れとは言ってない。」 「ごめん。本命を見つけてしまったんだ。」 「お前…それ音に言ったの?」 「食事の帰りに音には話すつもりだった。社長の前に音に話すのが筋だと思ったから。」 「キャンセルで話せなかったわけか。音は知らないんだな?」 「ああ。でも、今度の休みにお宅にお邪魔しようと思ってる。 音にはその前に…。」 「颯!ふざけるなよ?音がどんだけお前のこと好きか、知ってるだろ? 結婚式、六月だ!破談にしてお前どうなる。あの親父が許すと思うか? 会社、潰れんぞ!」 「分かってる。」 颯の言葉に奏は髪をくしゃくしゃして、ため息を吐いた。 「昼飯奢れ、その女、会わせろ。俺を納得させてくれ。音よりいい女で、お前が好きでしょうがないってとこを見せつけてくれ。 それで納得出来たら、親父に何とか口を利く。無理だろうけど、多分、音が助け舟を出すだろうしな。親父は音には弱いし、音は…きっとお前を助けちゃうんだろうしな。」 「ごめん、ありがとう。」 「音にはまだ言うな。それから、殴らせろ!親父はお前を辞めさせるだろう。 最後に殴らせろ、音にも二度と近付くな。俺にも顔を見せるな。 俺は、お前も音を凄く好きだと思ってたよ。 信じて馬鹿を見た。音で欲情してたくせしやがって、ふざけんな!」 バン!! と、奏は凄い勢いでドアを閉めた。 確かにそんな頃もあった。 高校生になって、日曜日の度に遊びに来る音が可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られて耐えていた。 5歳違い…小学5年生に馬鹿かと思った。 奏の言うようにいいなと思う子と付き合った。 長くは続かなかったけど…。 直ぐに彼女にメールを入れた。 「おはよう、円佳(まどか)。友人が恋人に会わせろって。 今日のランチいいかな?」 「おはよう。勿論、いいよ。嬉しい。どこに行けばいい?」 「そっちの受付行くよ。近くの喫茶店でいいね?じゃあ、昼に。」 「分かった。受付嬢がお待ちしています。」 入れない部屋のドアに近付き、大きな声で言う。 「奏!昼飯、高原の近くでいいか?彼女のオッケーもらった。」 返事はなく、着信が鳴る。 「分かった。12時に一階ロビーで。」 親友を失くすのか…と、思った。
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