女優だね

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「何でそんな事……。」 茫然と颯は呟く。 「一年会ってないていうのも逆手に取られてるな。 それも知ってたみたいだ。 お前好みの女になり、気を引く。食事に行き、音と同じ口調、仕草、笑顔、お前は惹かれる。酔わせて寝る。計算ずくだよ。 タイプの上、なぜか惹かれる…そうだよな?好きな女の真似してるんだからさ。その上、寝たし?お前は当然、この人しかいないと思う。 真面目だしな?そしてプロポーズだ。これが真実だよ。」 颯をにらみ、奏は言った。 それまで黙っていた律が口を開く。 「気になって調べたんだけどね?飯塚円佳さんが颯君を好きなのは本当だと思うよ?努力も認める、凄いもんだ。二人の事は二人で決めて。 彼女、妊娠している可能性も考えたほうがいい。そういう子だ。 橋本さんは実家に帰るんだよね?それまではこれまで通りでいい。 ただ、飯塚さんとはもう連絡を取り合わないで。 それを守ってくれたら、退職金は色をつけよう。いいかな?」 「はい……。申し訳ありませんでした。」 「いいよ。君もそこまで大ごとになるとは考えてないでしょうし、ただ隠し撮りは犯罪にもなりかねるからね?反省して、飯塚とは縁を切って。この話は、ここを出たら全て忘れて。誰かに話さない様に…。」 「はい、失礼…します。」 深く頭を下げて、橋本 明美は仕事のフロアに戻って行った。 颯は頭を抱えた。 それを見て奏も言う。 「まぁな?真面目なお前に、遊べ、と言った俺も責任を感じてる。 音だけで人生が決まるのも、後で後悔するんじゃないかと思ったんだ。 だけど、自分の心を何で偽ろうとした?ちょっと考えたら分かるだろ? 音似の女ばっかり付き合って、結果、本命を他の男に取られた訳だ。 飯塚とは好きにしろ。飯塚が結婚した後、どこまで演技を続けられるかも見ものだし、音の事はもうお前には関係ない。じゃあな。」 奏が部屋を出て行く。 音の事は関係ない……その言葉が突き刺さる。 「飯塚円佳さんに、橋本さんから聞いたとは言わないでね。 恨まれても困る。あくまで君が自分で気付いた。 別れるならそう話して?もちろん、結婚するなら祝福するし言う必要もないと思う。奏じゃないけど、どこまで女優が出来るか見ものだしね? 明後日、ここを去るんだろ?高原でも頑張って。」 手を差し出された。 握手をする気もおきない。 「音は…。」 「気にしないで?白蕗コーポレーションの名にかけて全力で探すから。」 律に言われて、颯はかなりのショックで部屋を出て行った。
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