七夕の夢

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遠くの庭の植え込みから、教会に新婦が入って行くのを見送る。 時間を置いて、そっと中に入った。 それを見届けると、マリーは出口の方向へ向かった。 そこで待ち合わせしていた。 一番後ろの席にそっと紛れ込んで、声を密めて音は式を見守った。 兄の律と菜々は大学が同じで、白蕗のイメージモデルを探していた律が大学でスカウトして、連れて来たのが出会いだ。 白蕗のイメージモデルの契約は一年間、それが終わる頃、ちゃんとした事務所から声が掛かり、菜々はモデルとしてデビューした。 ちゃんとお付き合いを始めたのはその頃だ。 音にとっても女の子の友達は少なくて、菜々は気の合う憧れのお姉さんで、大好きな相手だった。 式が終わり、係の人が教会のドアを開けるのを見計らい、そっと外へ出た。 親戚関係には気付かれたくないし、足早に離れた。 「おとぉ…音!おい、音!ったく…足は早いんだから。」 肩に手を置かれて、振り向くと奏がいた。 「奏ちゃん……。」 「もう、帰るのか?律達に会ってお祝い言っていけよ。久し振り、もう少し顔を見せろ!」 と、奏にほっぺを両手で挟まれる。 「お父さんと顔を合わせたらやばくない?」 「やばくはない。けど、そのまま自然な見合いは確定だな…。今日も来てるからさ、多分、紹介される。」 「やばいって言うよ?そういうのは…。」 「だな?」 顔を見て笑い合う。 「良かった、元気で…。ごめんな?兄ちゃん、颯にいろいろ言ってさ、真面目な颯を混乱させたんだと思う。颯はお前の事が好きだよ?」 「……その好きは、きっと奏ちゃんと同じだと思う。あ、これ、奏ちゃんから、菜々さんに渡して?お祝いなの。」 「分かった。あと、これ…持っていけ。お前のスマホ。 連絡とりたくない時は電源切っててもいい。でも、いざという時に連絡出来る。どうせ今、持ってるのは教えたくないんだろ? 好きな男がいるなら、颯じゃなくて親父から逃げたって事だもんな。」 「……うん、まぁ……。分かった。ありがとう。」 お礼を言うが、奏ちゃんが完全に好きな男がいると思っているんだなぁと、返事に困りつつ携帯を受け取った。 (律兄さんが新婚旅行から戻ったら連絡しよう。) 昔から長男の律は冷静で、次男の奏はせっかちな上、早とちり。 連絡は律に入れた方が良いと判断した。 (まぁ、好きな人がいるから結婚出来ないって家を出たのは私だし、今更、誤解ですと言っても、高原と取引中止になっても困るし、どのみち、もう帰れないんだから…。) 「あ、じゃあ行く。」 奏の後ろから人が歩いて来るのが見えた。 「あ、おい!ちくしょ、はえっ…。」 スマホを出した所で後ろから声がかかる。 「奏さん?移動しますよ?」 「あとで…合流します。」 答えて、少し植木の陰に入る。 「颯?今どこだよ。音、今、表門に多分…走って行った。すぐ行け。え?」 通話が切れる。 「いた?て……言ったか?」 少し考えてから、ロビーに向かった。 「はぁ〜〜。直接会って話せば、何とかなるだろう?なるかな? なると良いな………。」 颯の愚行を思い返す。 「無理かな?やっちゃってるし…。 なんかもう、俺、責任重大だよ。」 頭をぐしゃぐしゃと、してから呟くと前から声がした。 「重大じゃない。責任、重罪だ。」 タキシードの律だった。
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