七夕の夢

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表門近くで颯に音は腕を捕まれた。 颯の反対の手にはスマホ。 音のすぐ前にはマリーがいた。 それを見て、颯が言う。 「帰るのか?あいつと…。」 頷き、手を動かす。 「頼む!1時間、時間をくれ。話しをさせてくれ。誤解もあるし、音がそいつが好きならそれでも良い。話だけは、させてほしい。」 懇願に、手を動かすのを止める。 「マ、麻里、先にホテル戻ってて?」 「いいけど…。平気?」 「うん、帰りはタクシーで直接、ホテルに行くね?」 「分かったわ…。うん、分かった。じゃあ、失礼します。」 麻里が挨拶をして、歩いていくのを二人で見ていた。 「いい…人そうだな?」 颯がそれを見送り言う。 「うん。凄くいい人。」 音はそう言うと、颯の顔を真っ直ぐに見る。 「話には応じるけど、ここのロビーはちょっと…。親戚とか、お父さんには会いたくないの。」 それを聞いて、颯は腕を放して考えた。 「そうだよな……。喫茶店も今頃は誰かいそうだし…。 音が嫌じゃなければ……ここのホテルに部屋を取ってて。今日、泊まる予定で…。」 「誰かに邪魔されずに、話は出来そうだね……うん、いいよ。」 ホテルの部屋と言われて、素直に付いて行ったのは、颯だから、幼馴染だから…許嫁だったから、と同時に、これまで一度も颯が音に触れたことがないから…と言う理由があった。 もう一つ……家族が知る音の性格、突拍子も無い事を突然する…というのを、少しは考えていたからだった。 「午前中に着いて、部屋で着替えたんだ。」 エレベーターの中で颯が話す。 「今日は、自宅からじゃないの?」 「ああ、今ね、高原に戻って修行中の身で…。支社を廻っているんだ。今は、神戸。月単位だからウィークリーマンションか、ビジネスホテル。」 エレベーターの扉が開き、レディファーストされて降りてから聞いた。 「お父さんの所為?私がいなくなったから?」 颯を守りたくてした家出なのに、結果的に守れていないのだと、音は申し訳ない思いで聞いた。 「違うよ?音は何も悪くない。それも伝えたかった。手紙には自分に非があると書いてあったけど、一年、デートにも誘わずに、放ったらかしていた俺が悪い。白石蕗社長はうちとの取引、そのままにして下さってる。」 廊下を歩きながら、颯が言うと、やっと音も笑顔を見せた。 「ここ、朝、着替えたままで散らかってるけど。」 部屋に入り、ベッドの上の服をハンガーに掛けて、音はお茶を入れる。 「ああ、いいよ。自分で…。」 「気になるし…。もう終わり。お茶でいいよね?」 シングルベッドがひとつ、窓際に丸いテーブルと一人掛けの椅子が二つ。 奥の椅子に座った颯は、ネクタイを緩めて上着を脱いだ。 お茶を飲み、大きく深呼吸した。
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