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「そういう仲じゃないは、嘘だよね?」
音が唐突に話しを戻した。
「そういう仲じゃないよ?」
と、同じ事を俺は言う。
「バレンタインデーには両想い?寝たんだよね?その日。
彼女の嘘だと思いたかった。聞きに行こうとした。だけど颯の口からそうだよって言われたら、どうしたらいいか分からないから逃げてた。」
「それは、酔ってて…、いや、言い訳だな。確かに一度だけ。
だけど……今はもう、」
「彼女、妊娠してるらしいよ!」
音が俺の言葉を遮った。
「え?」
(聞いてない…。円佳とは綺麗に別れたんだ。)
「そんなはずはない。」
「会ってない?来てたよ、彼女。私はここに来て偶然、会った。
お久し振りです。律さんおめでとうございますって言われた。」
「何で円佳がここに?」
「さぁ?颯に会いに来たんじゃないの?東京にいないなら、こんな機会でもないと会えないし…。妊婦だからお酒が飲めないって話してた。それ以上は、私も気まずいし…すぐにお手洗いから出て来たから。」
茫然とする俺に音が言う。
「颯の…子でしょ?おめでとう…でいい?」
「そんなはずはない。俺は、今でも音が好きで、音だけを見て小さな時から生きて来たんだ。」
「そんな人は!それが本当なら!他の人に子供なんか出来ないよ!」
今まで冷静だった音が、声を荒げて叫んだ。
音だけを見て、愛して来た自分の人生が、手からサラサラと落ちていくように感じた。
「円佳……円佳さんと寝て、お付き合いして、プロポーズした。
許嫁とは破談にする。そう言った。それは、事実でしょ?」
言い訳も仕様がない…音の言う通り、それは事実だった。
「ちゃんと最後まで聞いてくれ。それは事実だけど、だけど、誤解もある。
俺が馬鹿なせいだけど……。」
目の前がクラクラした。
ショック過ぎて貧血かなと、思った。
「具合悪い?大丈夫?横になる?」
音が心配してくれて、取り敢えずはベッドに座る。
靴を脱いで足をあげようとした時、俺の首に手を回し、音の柔らかい唇が触れた。
「……音?」
(何を…考えている?)
「もう辞めよう?何を話したところで、私たちはもう許嫁じゃないし、戻れもしない。」
そう言い、また唇が重なる。
「幼馴染にも戻れないし、私が家に帰ってもまた違うお見合いがあるだけ…。
小さな頃から夢見ていた、颯のお嫁さんにはなれないの…そうでしょ?」
もう一度、唇が重なる、今度は深く、強く。
目の前がクラクラして、音が綺麗で柔らかくて、何も考えられなくなり、
俺はそのまま音を押し倒して体を求めた。
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