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「音?音、もうすぐ時間だけど…。」
マリーに起こされて目を覚ました。
式のために準備したドレスが、生理でもないのに染まっていた。
「音?大丈夫よ?よくある事よ。私、男だから説得力がないわね?」
その言葉に、少し微笑む。
こんな時はいつもマリーに救われる。
「着替える…。ナプキンあるし、マリー、鞄取ってもらえる?」
「ええ、はい。」
「時間、どの位ある?」
「今、9時よ。1時間はあるわ。」
「ごめん、すぐ着替えて来る。9時半過ぎには出ないとね?」
鞄を持ってふらりとお風呂場に着替えに行く。
マリーはどうなったかは聞かない。
多分、予想は付いている。
少しの幸せと罪悪感。
許嫁がいると知りながら、颯と付き合い、寝た彼女。
子供がお腹にいる彼女がいると知りながら、颯と寝た自分。
どっちも最低で、最悪な女だ。
(ううん…私の方が最低なのかもしれない。)
鏡に映る自分は醜く思えた。
それでもこれから長い時間を一人で生きる為に、今までの気持ちに区切りをつけるために、必要な事だと思えた。
新幹線は、自然に颯から離れてくれる。
便利な乗り物…心も離れてしまえばいいのに…と思う。
マリーの肩に頭を乗せて甘える。
「ねぇ、マリー。私……かたつむりになれるかしら……。」
それが音の願いと知っていてマリーは協力をした。
「…どうかな?もうしばらくしないと…分からないものね?」
心の痛む協力で、悩み抜いた結論…少し羨ましくもあった。
しばらくの沈黙の後、マリーが呟く。
「だめだったら、どうするの?」
「そうね……。とりあえずバリバリ働いて、いい出逢いがあれば全力で恋をする。マリーみたいに…。」
「それは素敵ね。傍にいるわ、着くまで寝てて良いわよ。」
マリーに頭を撫でられて、子供に戻った気分になり少し涙が出た。
そのまま、うとうと眠りに就いた。
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