音の過去

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「それからの私は、颯さんに相応しくなるように、勉強も運動も習い事もして、いつも兄と颯さんと一緒でした。 20歳を過ぎたら結婚する。颯さんのお嫁さんになる。考えただけで幸せでした。颯さんは何も言わないけど大事にしてくれていたし、中学になった時、高校生の颯さんに彼女が出来たのも知っていましたけど、私への態度は変わらないし、長くても3ヶ月続いた事もなくて、仕方ないかなと思ってました。」 「許嫁が彼女を作る……まぁ、仕方ないかもね?」 「短大を卒業して、6月の終わりに結婚式の予定でした。 高校生から、日曜の午前中は颯さんの家にお邪魔しに行き、一緒の時間を過ごして、颯さんは父の会社に勉強として入社して、卒業式の日、お祝いしてくれると、夕方、待ち合わせしていました。会社終わりに捕まえて驚かせようと会社の前で待ってました。」 少し思い出して言いたくなさそうな顔をする。 マリーはそれを見て、 「無理に話さなくてもいいのよ?」 と気を遣う。 「いいえ、ちゃんと身元を証明しないと、マリーさんに迷惑は掛けられないから。」 少し笑い、音は話を再開した。 「会社の前で待っていたら、出て来ました。ただ女性が一緒でした。 見たこともない、颯の楽しそうな笑顔に頭を殴られた気分でした。 近くの喫茶店に入るのを見て、待たせていた車に戻り、携帯を通話状態にしてもらい運転手に喫茶店に入ってもらいました。私ではばれてしまうから…。」 「結婚式が近いから、別れ話でしょ?」 静かに首を振った。 「聴こえて来たのはプロポーズでした。 君も知っての通り、僕には許嫁がいる。時間は掛かると思うけど、破談を申し込むつもりです。キチンと破談になるまで待っててもらえないかな?結婚を前提に正式に付き合ってほしい。はい…という、彼女の声が聴こえました。」 「うそぉ……。じゃ、破談?」 マリーは口元を抑えて、自分が泣きそうな顔をしていた。 それを見て音はくすりと笑った。 (変な人。昨日会って、こんなに自分の事みたいに聞いてくれる。) 有り難かった。 ここまで一人で悩んで来たからだ。
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