傘が折れるとき

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 恫っ!!  激しい閃光と共に、視界が真っ白に焼き切れる。それを防いだ傘を一度閉じ、腰に携えていたビニール傘を代わりに開く。先端の突起を雨雲に差し込み、Jの字に曲がる取っ手を右へひねった。  爆発が、雨雲を塵にする。 「やっぱりビニール傘お手軽だな……もう2本くらい、今度コンビニで買っとくか」 『右から雷雲が2つきますね。部隊到着まで残り50秒、もちろん雷の方が早いですよ、今みたいにね』  頭にのせた笠から、相棒であるA.I.の声がする。 「だろうよ」  それに返した俺の眉間の皺が、一層深くなりそうだった。  かつて、雨雲は風流なものだった。かつて、雨は人の心を反映させる道具にもなった。嵐や台風による被害はあったが、それは自然災害であり、致し方ないと思えるものだった。  そんな時代が一変したのはいつのころだったのか、というのは、研究者たちの意見も大いに分かれている。  ともかく、何時のころからか、雨は戦争の道具になった。  雨雲はさしずめ戦車であり、雨は弾丸やレーダーの代わりとなり、雷はミサイルに変貌した。  人間は雨から身を守りつつ、同時に、迫りくる雨雲を食って無効化する力を持つ大雨雲の下で生きるようになったのだ。その中で、雨を振り払う傘は、次第に武器としての側面を強くした。  もっとも、そうなってすでに150年は経過しているらしい。 『索敵、番傘持ちが数名います。これは”狐の嫁入り”の可能性が高いですね』 「晴れ間を操るやつらか。厄介だな」 『部隊接触まで20秒、どうしますか?』 「濡れぬ先の傘って言うだろ? 今のうちに決着だ、さっき突っ込んだ雲で晴れ間を隠す」  こちらに迫る晴れ間をにらみながら、俺は折りたたみ傘を引き抜き、駆けだすのだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!