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強い北風に洗われて、頭上を覆う空には雲一つない。  吹きっさらしの丘の上の交差点で、真由は自転車に跨ったまま風圧に耐えていた。眼下にはとっくに刈り入れの終わった乾いた田んぼが広がり、道はゆるくカーブを描きつつ田んぼに向かって下っている。 「……さみ……っ」  風が強くて冷たいのは、いつものことだ。慣れた通学路だし、どうってことはない。ただ今日は、そのガランとした、枯れたものばかりの風景を見下すのが辛かった。まるで自分の未来を見下ろしているみたいだったからだ。 (進路なんて、みんなどうやって決めてんだ……?)  田んぼから遮るものなく吹き上がってくる埃っぽい北風が、痩せっぽちの身体を容赦なく揺らす。真由は両脚を踏ん張り、ショボショボする目で風上を睨んだ。毎日こんな風景の中、家と学校を往復しているだけなのに、一体どんな将来を夢みろというのだろう。 (いや、違うか。夢じゃなくて、現実を見ろって言われてんだよな。――それも、今すぐ)
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