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真由の住むアパートは、ビター&スウィートのあるN駅から二つ目のK駅が最寄駅だ。K駅は、在来線が三本接続するだけでなく新幹線も停まるターミナル駅で、県内でももっとも繁華な場所だ。
だが、十五分も歩けば田んぼとビニールハウスが目につき始めるという具合で、真由が母親の真莉と暮らすボロアパートも、そんな町外れにある。
真由は店を出ると自転車を走らせ、K駅方面に向かうことにした。田んぼばかりで目印がないから、勘だけが頼りだ。
自転車は、美津子が夫――つまりビターアンドスウィートのオーナー――肥田源三のものを貸してくれた。
この辺りでは、車か自転車がないと何処へも行けないから美津子の好意はありがたかったが、今はただ風が凍るように冷たくて風呂に入ることばかりが頭に浮かぶ。
二十分も自転車を走らせると見覚えのある場所に出て、真由は安堵した。あとは知った道を走り、自宅アパートに到着した。足音を忍ばせてもギシギシしなる階段を上がり、そっと鍵を回して安普請のドアを開く。人気のない暗い部屋からカレーの匂いが漂ってきた。真莉が夕食を置いていってくれたのだろう。今頃真莉は、駅前の小料理屋で女将として忙しく働いている筈だ。
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