思い出の図書室

1/1
前へ
/36ページ
次へ

思い出の図書室

 本には磁力があると思います。  その本を集めた図書室は、相当の磁場となります。  ずっと、私の中に残っていて、時折思い出す記憶があります。  小学生の私は、図書室の入り口に立って、中をのぞいています。  白い天井の部屋の中には、誰もいません。  窓からは、明るい日差しが差し込んでいます。  周りの壁には、ぐるりと棚があり、上の段までたくさんの本が並んでいます。  私は、そろりと中に入ってみました。  途端に、何か気配を感じました。   ……見られている?    そうです。そこに在る本たちが、一斉に私を見ています。  でも、それは悪意のある感情ではありません。  むしろ、それは……好意的な、期待のこもった眼差しです。  私は促されるように、惹きつけられるようにその中の一冊を取り出します。  表紙を開け、ページをめくってみます。  あるページを読もうとしたところで、チャイムが鳴ります。  私は慌てて、本を棚に戻します。  いえ、きちんとは戻さなかったかもしれません。  ポンと本を横にして、放り込んだだけかもしれません。  教室にもどらなくちゃ。  今はここに来てはいけない時間だったんだ。  自分が悪い事をした気がしました。  けれど、それは、自分ではどうすることもできない引力だったのです。  戸口から出る瞬間、背中の向こうから無数の声を聞きました。 「また来てねー。 きっと来てねー」  私はその部屋のとりこになっていました。  ……近頃、そんな記憶の再現ビデオをエンドレスに再生しています。  
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加