3. ヤマブキ

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4月22日  いつもより、20分は早く家を出た。  今日は青葉小で、読み聞かせデビューだ。  少し、いやかなりドキドキする。  朝、娘の梨花にそのことを言ってみた。 「いつもみたいに、梨花の学校で、読んでると思えばいいじゃん」  あ、そうね。  逆に励まされてしまった。  入るクラスは、2年1組。  何の本にするか、図書室の絵本を何冊も読んだ。  その相談もしたくて、先週の土曜日に「ねこもりとしょかん」に行った。  私がスタッフとして関わっている、子ども図書館だ。  開館している時は、スタッフで当番をする。だいたい、2ヶ月に1回程度回ってくる。今日の当番は、館長の小森さんだ。 「やっと、赤木さんにぴったりの仕事ができるようになったわね」 「はい! もうこれもみんな『ねこもり』のおかげです」 それで、読み聞かせの本を相談する。 「今まで、読み聞かせで読んだ本を参考にすればいいと思うけど、あちらの学校にある本がいいわね。あとで読みたくなったら、読めるし」 「そうですね。それが、読書に繋がっていくんですね」 「それに、まず赤木さんがその本を読んでて楽しくなくてはね」 「好きな本とそうでない本では、伝わり方が違いますね」 「でも、思い入れたっぷり過ぎてもダメよ。それから朝から重い本は、どうもねえ。でも、私たちは、外部の人間だけど、赤木さんは内部の人になるわけだから、子どもたちとの絆が深まれば、メッセージ性の強い本でも、読んであげられるんじゃない?」 「絆が深まれば……どうしたら深まるでしょうか」 小森さんは首を傾げて、いたずらっぽく笑う。 「さあ、それは赤木さんの腕の見せどころかしら。そんなに気張らなくても、絵本が橋渡ししてくれるんじゃない? それに、赤木さんはもう、そういう力とか、絵本を見る目は、身についてると思うわよ」 そうは言われても、少し不安だった。 私は甲斐信枝さんの「たんぽぽ」を読むことにした。よく植物を観察した、写実的な絵本だ。物語というより、科学読み物という趣きがある。 家でも、練習がてら子どもに読んで聞かせた。綿毛が飛ぶところで、目を見張っていた。 さあ、どんな反応を見せてくれるだろうか。 私は絵本を胸に抱えて、廊下から教室をのぞきこんだ。
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