5. エゴノキ

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 また、ある日のことだ。4時間目ももう終わろうとするころだった。  職員室に入ろうとすると、その戸が勢いよく開いて驚いた。教務の大川先生だった。 「ああ、失礼した」  そう言うと、ろうかを走っていった。いつもは、職員室の前を走る子たちを注意しているのに、走っているのだ。何ごとだろうと中に入った。 「じゃあ、篠田先生は寺前方面を見て来てもらえますか」  教頭先生が、体育の篠田先生に指示している。  私は事務の春野さんに聞いてみた。 「何かあったんですか?」  春野さんは、困ったように眉を下げた。 「4年2組の中村さんが、教室から飛び出したの」 「え? でも寺前方面て」 「うん、校庭走ってつっきって、いなくなってしまったって」 「え? 何か教室で嫌なことがあったんですか?」  春野さんは、更に眉を下げる。 「さあ、そこのところは、まだ聞いてないけど。何か最近、教室から出ること多かったらしいよ」  確かに、図書室にも来ていた。    そわそわしながらも、給食を食べた。  先生方が交代で探しているがみつからないようだった。 「昼休みには、八幡山まで行ってみなあかんな」  八幡山は、大休みのマラソンにも使う。子どもが足を踏み入れるのに、戸惑う山ではないのだ。  しかし、昼休み、掃除の時間を使っても、中村さんは見つからなかった。
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