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5時間目に、無担任の先生方でもう一度捜してみることになった。
「赤木先生は、学校の周りでいいですから、ゆっくり見てまわってください」
「はい、わかりました」
教頭先生の指示通り、ゆっくり歩きながら、きょろきょろと見て歩いた。
体育館の横を通りぬけた。すると、もう住宅街に入る。
ふと見ると、すぐ近くの民家の塀の陰に、うずくまっている男の子の姿が見えた。
中村さんだ。
それは、まるで、みつけてくれと言わんばかりに見えた。
やっとみつけたのに、私が今一歩ふみ出して、またどこかに走って行ってしまったらどうしよう。
「中村さん、そっち行ってもいいか?」
中村さんは、ゆっくりとうなずく。
私が近づいても、逃げる様子はない。少しこちらも落ち着く。
「どうしたん、中村さん。何か嫌なこと、あったんか? 何か言われたんか? 給食食べてないなら、お腹すいてるやろ。みんな心配してるし、帰ろう」
中村さんは顔を上げると、上目づかいで私を見た。
少し泣きそうな顔になって、唇をかんだ。
私は、手を差し出した。
中村さんは、その手を握ってくれた。
そのまま手をつないで、学校に戻った。
住宅街の庭にエゴノキが生えていた。枝にびっしり咲いた白い花を風がゆらした。私たちの背中にも、風が渡る。
カエルが、道の端でぴょんと跳ねた。中村さんがビクッと反応したのが手から伝わった。
「カエル、嫌いなん?」
「別に。急に飛び出してきたからびっくりしただけ」
「そっかあ。男の子やもんね。カエルぐらい、なんともないわね」
道を曲がれば、そこはもう学校だった。
玄関近くで、教頭先生が向こうから走ってきた。
「ああ、中村くん、いたんですね。良かった。赤木先生ありがとう」
「いいえ、たまたまです」
見つけた場所を説明して、教頭先生にバトンタッチした。
中村さんは下を向いていた。
私も中に入った。
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