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1. シロダモ
4月4日
その日の午後、私は市役所の一室にいた。
この春から、私は「図書館サポーター」という職名で、働くことが決まった。
今日は、その委嘱状交付式がある。
私は3月に、この仕事をパートバングでみつけた。
「教員か司書の資格が有れば望ましい」と条件が出ていた。
私はそのどちらの資格も持ってはいない。
けれど、近くの私営の子ども図書館のスタッフとして、児童書に関わっている。絵本の読み聞かせもその図書館から地元の小学校に赴き、実施している。もうそれも、4年になる。
その経験を買ってもらい、採用となった。
正式に文書での連絡が届いたのが、3月28日だ。
つい、この間である。
式の会場には、私と同じような年配の女性が、20人ほど集まっていた。
何人かの人は、話をしていた。
私は知っている人もいない。固くなり、様子をうかがっていた。
50音順で席が決まっていた。
私は「赤木」なので、一番前の端っこだ。
私が最初に何かしなければいけないのかと焦った。
けれど、真ん中の人が代表で委嘱状を受け取り、残りの人はそれに合わせて礼をした。
名前を一人ずつ呼ぶので、返事をして立ち上がり礼をするようにと指示された。
「赤木 花さん」
私は上ずりながら「はい」と返事をして立ち上がり、ぎくしゃくと礼をした。
図書館サポーターは、市内の小中学校に配置される。
2校兼務で、曜日ごとの日替わり勤務となる。
仕事は、学校図書館の運営支援だ。
図書室の本の管理をしたり、読書の手助けをする。
サポーターと位置づけされているのは、主任が存在するからである。
学校の先生方は、校務を分掌している。図書主任は、司書教諭免許を持つ先生が担当する。しかしながら、クラス担任を持ちながら、図書室の業務をこなすのは至難の業だ。それで教育委員会は、業務を代わりにする、サポーターを置くことにしたのだ。
交付式の後、サポーターの交流会があった。
新人を除く人たちが、去年の取り組みを報告した。
だいたいの仕事の内容が、箇条書きで書かれたものが配布された。
会が終わり、新人と思われる人が声をかけてきた。
「私、中林といいます。何だか、さっきの報告聞いて、不安になってきたんですけど、情報を伝え合いませんか?」
「はい、そうですね。あ、私は赤木といいます」
そのやり取りを聞いていたのか、他にも新人の人が集まってきた。
お互いの連絡先を教え始めた。
中林さんのように、不安を口にする人もいた。
しかし、一人の人が言った言葉に、はっと我に返った。
「私は、加賀谷です。私も司書の資格無いですよ。でも、採用されたのは、無くても大丈夫ってことですよね」
そうだ。
自分のやれることをすればいいんだ。
さっきまでの不安が、一気に払拭された。
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