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4月5日
まず、仕事に入る前に、打ち合わせが必要だ。
私は、まず家から3Kmのところにある、青葉小学校に向かった。
福井市には中心部に、足羽三山と呼ばれる、100m級の低山が3つ並んでいる。中心部に一番近い足羽山は、紫陽花の植え込みが美しく、市のシンボルになっている。野生の猿まで棲む、自然豊かな里山だ。
その足羽山を越えた地区に、青葉小学校は位置する。
そして、グラウンドの目の前には、三山の二つ目の山、八幡山がそびえている。足羽山と八幡山に挟まれ、少し行くと、三つ目の兎越山まである。
町中にありながら、緑豊かな環境だ。
職員室に入ると、先生方が忙しそうに立ち歩いていた。
しどろもどろに挨拶すると、校長室に通された。ふかふかのソファに、体がひっくり返りそうになる。
「はい、こんにちは。あなたが新しいサポーターさん?」
「は、はい!」
私は、慌てて立ち上がる。
「ああ、座って」
校長先生は、白井先生といい、ずんぐりむっくりの体型とぎょろりとした目が、ダルマを思わせた。
川本教頭先生は、日に焼けた精悍な顔つきの先生だった。後日知ったのだが、マラソンが趣味でいつも走って登校しているとのことだった。お休みなどのお願いは、教頭先生にするらしい。
図書主任の平木先生は、30代ぐらいの背の高い女の先生だった。
「赤木です。よろしくお願いします」
そう言っても反応が鈍いので、どうしたのだろうとその時は思っていた。
そして、前任のサポーターの人との引継ぎをするように言われていたので、その話をしてみた。
「ああ、東先生ね。ご結婚されて、県外に引っ越しされたんだよ」
「え? 直接お話はできないということですか?」
「一応、連絡先は聞いてるけど、今頃はヨーロッパに新婚旅行のはずだね」
図書室のカウンターに、前年度の業務日誌があるはずだから、見ながら仕事をしていけばいいと言う。
「平木先生と相談して、ご自分でアレンジしてくれればいいからね」
不安になりかけたが、まず図書室を見てみようと思った。
場所を教えてもらうと、階段を上がったところだということだ。
階段は、来客用のスリッパだと脱げてしまって、上りにくい。
そうか。校内用のはき物も、2足準備しなければと思いつく。
『図書室』、と白いプラスチック板に黒い文字の一般的な表示板があった。
入口の周りを見てみるが、飾ったりはしていない。
戸口の横にある掲示板には、『入学・進学・おめでとう!』と大きく表示が出ている。その下に、ピンクのお花紙で作った花が飾られ、白い鳩が飛んでいる。この場所は図書が担当するのだろうか。それも、平木先生に確認しなければと、チェックする。
引き戸をそっと開けてみる。
一番先に目に入ったのは、正面の窓から見える足羽山だった。
横に長い部屋で、普通教室2つ分くらいだろうか。
児童玄関の上に位置するので、その分のスペースがあるということだ。
窓の下には、低い二段の棚が並んでいる。壁にはぐるりと背の高い棚があり、本がぎっしり詰まっている。その割には、1番上の棚には、本が、並んでいない。ああ、そうか! 小学生の身長だと、届かないのか! と思い至る。
貸出返却のカウンターがあり、その奥に、高い本棚がある。
入口のすぐそばには、小上がり2畳分のたたみスペースがある。その周りには、絵本の棚がある。ここに座って読んでいるのだろう。
私はさっきから、妙な感覚にとらわれていた。
……見られている。
私の他には誰もいないのに、無数の視線を感じるのだ。
そして、気が付いた。
それは、本が発している磁気だった。
本がたくさんある場所には、いくらだって行ったことはある。
本好きの私は、公共の図書館にはよく行くし、書店にも行く。
けれど、そこでは、こんな感覚は味わったことがない。
この……そう、『期待』ともいうべき磁気をかつて感じたことがあった。
小学校の時だ。
あの時の感覚だった。
ここの本たちは、気付いているのだ。
私がこれから、自分たちと関わる人間だということに。
ありがとう、受け入れてくれて。
私は、花っていいます。
本は、大好きです。
新参者だけど、よろしくね。
私は静かに、戸を閉めた。
職員室に戻り、平木先生に掲示板のこととか、いろいろと聞こうと捜してみるが、姿がない。
事務の春野さんに自己紹介して、挨拶する。
そして、平木先生のことをたずねた。
「ああ、何か体調が悪いとかで、帰ったみたいよ」
「そうなんですか」
まあ、慌てることもないかと思い、帰ることにする。
教頭先生に挨拶に行くと、少し待ってと言われる。
「あー、先生方、ちょっといいですか」
職員室によく通る声が響き、途端に静かになる。
「今年度から、図書館サポーターとして来てくれることになった、赤木先生です。月・火・金曜日に来てくれるので、その曜日に、読書の時間を設定してください。では、赤木先生、ひと言どうぞ」
私は、一瞬でフリーズドライ化してしまったが、かろうじて、声を発した。
「……赤木といいます。学校という職場は初めてです。どうか、よろしくお願いします」
先生方から拍手をもらい、恐縮してしまう。
パートのおばさんも先生方といっしょにいると、子どもたちからは「先生」と呼ばれてしまうのか、と複雑な気持ちになった
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