思い出の図書室

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思い出の図書室

 本には磁力があると思います。  その本を集めた図書室は、相当の磁場となります。  ずっと、私の中に残っていて、時折思い出す記憶があります。  小学生の私は、図書室の入り口に立って、中をのぞいています。  白い天井の部屋の中には、誰もいません。  窓からは、明るい日差しが差し込んでいます。  周りの壁には、ぐるりと棚があり、上の段までたくさんの本が並んでいます。  私は、そろりと中に入ってみました。  途端に、何か気配を感じました。   ……見られている?    そうです。そこに在る本たちが、一斉に私を見ています。  でも、それは悪意のある感情ではありません。  むしろ、それは……好意的な、期待のこもった眼差しです。  私は促されるように、惹きつけられるようにその中の一冊を取り出します。  表紙を開け、ページをめくってみます。  あるページを読もうとしたところで、チャイムが鳴ります。  私は慌てて、本を棚に戻します。  いえ、きちんとは戻さなかったかもしれません。  ポンと本を横にして、放り込んだだけかもしれません。  教室にもどらなくちゃ。  今はここに来てはいけない時間だったんだ。  自分が悪い事をした気がしました。  けれど、それは、自分ではどうすることもできない引力だったのです。  戸口から出る瞬間、背中の向こうから無数の声を聞きました。 「また来てねー。 きっと来てねー」  私はその部屋のとりこになっていました。  ……近頃、そんな記憶の再現ビデオをエンドレスに再生しています。  
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