4.ハナミズキ

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4.ハナミズキ

5月10日    青葉小学校の周りは、住宅が多い。元からあった住宅街のそばに、新しい住宅街が広がる。そこには、元々大きな紡績工場があったらしい。今は大手の住宅メーカーが街ごとデザインし、モデルハウスのような住宅が並ぶ。  街路樹として植えてあるのは、ハナミズキだ。真っ直ぐな道に、今の季節は薄赤く染まった木が立ち並ぶ。そのそばを抜けていくのは、心が弾む。  手を入れてない、自然のままの山の木も美しい。対して、街に整って植栽されているのもまた、美しい。  今朝、3年3組に読み聞かせに入った。 机を下げてなかったので、下げてくれるように言った。 「そんなことして、読んでもらったことない」  授業形式だったら、絵が見えないだろうに。  準備でバタついたので、子どもたちの、気持ちがそろわないかもしれないと思っていた。けれど、一文読み出したら、しーんと静かになって、集中した。  まとまっているクラスかどうかは、そんなところからもわかるのかと思った。  鳥山先生から、新刊を入れるので、おすすめの本があったらどうぞと言われた。 「え? 私も選んでいいんですか?」 「もちろんです。というか、むしろ選んでほしいくらいです。カタログ見てるだけでは、全然わからなくって」 「はい、少しリストアップします」  それで、本のカタログを渡された。もう、それを見ているだけで、わくわくする。  でも、蔵書と被ってもいけないので、どんな本があるのか、チェックする。  仕事についたら、毎回「棚みがき」をする。  棚を見直すということだ。  横倒しになっている本を起こす。さかさまになっている本は直す。  分類の違う本は、本来の場所に戻す。  がちゃがちゃしていた本の気配も、すっと落ち着いてくる。  きちんとあるべきところにきちんと収まり、整っていくのは清々しい。  すると、ハナミズキの並木を思い出す。  そういう作業をしながら、どの棚に何の本があるのか、頭に入れていく。  そして、タイトルだけ把握しているだけではいけない。内容もわかっていなければ、とっさの要求に応えられない。  毎回、1時間ほどは本を読むことにした。低学年向けの童話などは、30分程で読める。  読んでみて、改めて実感する。子ども向けの本は、何と素直で柔らかな文章なんだと。そして、作者の「子どもがまっすぐ成長してほしい」という想いが、ストレートに伝わってくる。    本を読む。  一人でここで読んで、気付けば感動してぐずぐずと泣いている。  これが仕事だなんて、何という仕事だ!  そうだ。  解説本ばかりに頼っていてはいけない。  子どもたちに、おもしろい本を伝えるには、自分が読まなくては。  読んで感動した本を手渡さなくては、と思う。
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