2.マメザクラ

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2.マメザクラ

4月17日  4月も半ばを過ぎた。  窓から見える足羽山は、木々が萌え始めた。  あの山は桜で有名だが、青葉小から見える斜面は裏手なので、そんなに桜の木はない。  それよりも、枝に芽吹いたやわらかな若葉の美しさは格別だ。木の芽時は心も躍る。 よく見ると、木によって微妙に色味が違う。 繊細な点描画だ。ところどころに、白い花をつけた木が見える。ソメイヨシノは終わってしまったので、ヤマザクラか、マメザクラだろう。  風が吹くと、山全体が、緑のグラデーションの波と化す。  窓を開けて空気を入れ替えていたが、寒くなってきたので、さっさと閉める。  今年は、いつまでも寒い上に、この図書館は北向きだ。エアコンは無い。  夏になったらどうだろう。もしかしたら、かえって涼しいかもしれない。    さて、と、引き出しを開けた。  まずは、前任の東先生の業務日誌を取り出す。  2年間いらしたということなので、去年の4月はもう始動している。  始めはペースがつかめなかったが、この日誌を参考に、できることからやることにした。  けれど、始まってすぐ、問題が起こった。  平木先生とは、初日に挨拶してから、見かけていないと思っていた。  何と、体調を崩されたとかで、お休みされることになったのだ。  代わりに、図書主任をしてくれる先生がいない。初心者の私はどうしていいか途方に暮れた。仕方がないので、教頭先生に相談しながら進めていった。  ここ最近になって、校務分掌が見直された。  鳥山先生という、3年1組担任の、都会的な女の先生が図書主任となった。 「私も司書教諭の免許を持ってるだけで、あんまり図書の仕事はしたことがないんです。図書委員会のこともありますね」  それでも、相談できる先生が決まってほっとした。  その鳥山先生のクラスが図書室にやってきた。  本の借り方、返し方の復習だ。  鳥山先生が説明するのを聞いて、ああいう感じでするのか、と覚え込んだ。  クラス全員で来ると、サーっと見て、選んでしまう子と、なかなか選べない子がいることがわかった。  でも、さっさと選べることが大事ではないと思う。  本と向き合って、じっくり選ぶことも楽しいんだよと言いたい。  そうしているうちに、本の方がたまりかねて、ビビッとサインを送ってくる。  それが、その時必要な本だったりするから、不思議だ。  みんな、本が好きだよって、アピールしてごらん。本の方も嬉しくなって、 「ここにおもしろい本、ありまーす!」 「こっちだって! ここだよー!」  うるさいぐらいに、呼んでくるよ。  そんな風に、選ぶ姿を見ながら思った。
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