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「おいしーねー!」
みずみずしいトマトは丸かじりだ。
口いっぱいに甘酸っぱい汁が溢れる。
「夜は焼きナスにしようね」
「わーい!」
おじいちゃんの畑の野菜は、お日様の優しい味がする。
それはきっと、おじいちゃんが毎日汗をかきながらも、懸命に世話をしてくれるからだと思う。
「そうだ、朝の話だけど。小さな神様って、本当に神様だったの?幽霊じゃなくて?」
トマトで濡れた手を、準備しておいたタオルで拭く。
「さぁねぇ。あれが幽霊だったとしても、ばあちゃんにとっては優しい幽霊だよ。今でも会いたいくらいさ。ただ、神社で出会ったから神様だと思ってるだけだよ」
「山にある神社?あそこ、字が難しくて読めない」
「稜徳神社って読むんだよ。この島唯一の神社だけど、随分寂れてるね。階段もきついし、年寄りばかりだから、掃除もままならないんだよ」
「そっかぁ・・・ごちそうさま。遊んでくるね」
部屋を出ようとした時、おばあちゃんが「亜子ちゃん」と呼び止めた。
「人間でも、動物でも、それ以外の何かも。見た目はみんな違うけどね。優しい心を持っている者を、自分と違うからって不必要に嫌っちゃいけないよ」
「えっ・・・」
「ばあちゃんは、亜子ちゃんの顔の傷があったってどうとも思わないよ。それにそれは、お母さんが亜子ちゃんを守った印じゃないか。お友達だって、少しずつでもわかってくれるよ」
頬の傷に手をやる。
触っただけでも、そこが傷だというのはわかるくらいだ。
「・・・わかった」
そう言って、居間を出た。
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