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最終話
あれからもう何年経つのだろうか。あの時に宿った子供は小学三年生。
名前は元号の令和にちなんで
『和令』
かずのり、とあるクイズ王の芸人と同じ名前であることはさておき、
大島和樹の『和』と、倫典の『のり』でもあるのだ。
「お母さん、お父さんただいまー!」
倫典と三葉はあのマンションから引っ越して倫典の実家から援助を受け一軒家を建てた。
そして三葉の書いたあの本はとても影響が大きく、他の視点から記者が取材した本がでたり、三葉の本を元に作られた小説、漫画、それらがドラマ化、映画化した。
三葉は養護教諭の仕事を辞め、事故遺族のケア、講演、書籍出版をし、借金も無事返せた。
和令が帰ってきても居間には誰もいない。ランドセル以外に賞状を持って帰ってきたのだが……
「和令、おかえりなさい。」
「お父さん!見て!こないだ子供の部で全国優勝した時の賞状もらってきたよ!」
「おーっ、やったなぁ!!!改めておめでとう。……今夜はもう一度お祝いするぞ!」
相変わらず倫典は家の中を一気に明るくするムードメーカーである。
が、少し今日は様子が違うようだ。
「お父さん、お母さんは?」
「……さっき書斎に閉じこもっちゃった。」
「なんで?」
「喧嘩しちゃったんだよぉ〜、僕がねダラダラしてるから……」
「またぁー?」
和令はふと思いだしたかのように和室に行き、そこにある仏壇に手を合わせた。
仏壇には大島の写真がある。選び直した、本人曰くいけてる写真に変わっている。
手を合わせるのが日課である。倫典もついてきて仏壇の前に座る。
「お父さんもお母さんの気持ちわかってるの?」
「たまに難しいって思うね。」
「まぁ、あれこれ言わずにお母さんの好きな天神堂のこしあんぱん買ってきてお茶を出してあげたら少しは機嫌良くなるよ」
和令は小学三年にしては大人びた喋り方で、倫典に対して説教調になる。教員でもあった三葉に似たのか、倫典の医者家系の血なのか……。
「本当和令はお母さんのことなんでもわかってるなぁ。三年のくせにしっかりしすぎだ。」
「それほどでもー。お母さんのこと大好きだし。父さんは頼りないよ。僕が守るんだからね。」
とにやける和令。
居間には和令が夏の研究で日本の都道府県地図の研究で賞を取った時の地図が貼ってある。家の所々に買い与えた地球儀、図鑑や小説や漫画……倫典は子供が生まれるとそうなるものか、としみじみおもう。
「たくさ、小学三年のくせに大人びてるなぁ、和令は。和令のじいちゃんばあちゃんたちが期待してるぞ、医者になれって。」
「嫌だよ、僕は地理学者になるんだ!」
と、和令は幼稚園の頃から発している。どこで覚えたのか笑ってしまう倫典だが……。
「和令の中に小ちゃなおっさんいるのか?難しい言葉知ってるし」
と言うと和令は目を見開いた。
「そ、そんなことないよ」
「だよな、和令は和令だもん。大事な息子だ」
と、ぎゅっと倫典は和令を抱きしめた。小さい我が子を。
「たく、いつまでも子供だな……倫典も」
倫典は和令の発した言葉にびっくりする。一度仏壇の大島の写真を見る。
「どうしたの?」
「い、いや、気のせいかな……空耳かな?」
「お父さん、早くあんぱん買ってきなよ。お母さんの機嫌直してよ」
「そうだな。じゃあ一緒に行こう。お前の好きなフレンチトーストの材料も買おうかな。お母さん、作ってくれるかもよ?」
「わーい!!!!」
倫典が買い物の支度をしているときに、和令は仏壇を見つめた。
「あっぶねー、バレるところだった。まだ俺にはやりたいことあるんだからな。」
小学三年生と思えない口調である。
「おまたせ、お母さんが書斎から出てきたから三人でお店に行くよ!」
「うん!わかった!!!」
屈託のない笑顔で和令は返事をした。
終わり
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