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第72話 フイルム
光がさす方に、写真が映し出された。悠子と桐生の写真。
生い立ちムービーってやつか。俺は二回結婚してるけど二回とも結婚式をあげてないからこういうのは作ったことがない。
流れたのはまずは一つ年上の桐生から。
昔から顔は整ってたのか。家族仲良く、友達も多く慕われていた。剣道も小学生前からやっていた……ほう。彼の生い立ちはいったん中学生で終わって、次は悠子。
……可愛い赤ちゃんの写真。おおう、丸々として……て、俺は立ち会ったんだからな。この時のことは今でも覚えてるぞ。
写真は悠子だけ映ってるが、俺の手も添えられてるのに誰か気づいてくれ……ないよな。
俺がいた期間の写真は無くて、美帆子が再婚した後の写真……美帆子め。写真なぜ残さない!!!
父親として湊音が写ってる。ちらっはと湊音を見るともう泣き崩れてるぞ、おい。
俺は、まだ泣けねぇよ。
「僕はまだかなぁ。」
美守、お前はだいぶ後だ。暗闇を利用して俺のケーキむしゃむしゃたべてる。
一応お前の姉ちゃん達のムービーだから見とけよ?
そして悠子も中学生を過ぎていったん終わり、次は高校生へ……
!!!!
俺の写真……顧問として桐生に指導している写真。ようやく俺登場か。
すると後ろからすすり泣く声……三葉……そんな彼女をなだめるのは倫典……。ちなみに倫典はまだムービーに出てきてない……。
剣道部の試合の時に悠子が見にきていた時の写真。ああ、これがきっかけで二人は出会ったのか。
だがまだ二人は出会っただけ、また数枚違う写真が流れる。それぞれの親だったり、友達だったり感謝の言葉が添えられる。
「あ、僕が映った!」
美守はうれしそうだった。美帆子の方見ても彼女も泣いていた。……お前がお腹痛めて産んだ娘だもんな。
途中、悠子を置いて男のところに逃げたのにもかかわらず、悠子はお前のことを母親として慕って連絡を途絶えないようにしていたそうだ。
普通ならありえないよな。よかったな、美帆子。ハンカチを渡してやりたい。
すると美守が自分のハンカチを取り出してそっと美帆子に渡した。
「ありがとうね、美守」
……気がきくなぁ、お前も。
「おじさんがそう言ったじゃん」
あ、そうか。
そして二人は二年前、交際スタート……。色んなところに出かけた写真、二人で仲良く寄り添ってる写真。
悠子の笑顔……。
再び振り返ると、悠子の元彼の倫典は少し寂しそうにみえたが三葉の肩を抱き、温かく映像を見ていた。
素敵なムービーだったよ、ありがとう。……バックミュージック……俺が悠子に歌ってあげた子守唄である音楽じゃないか。しかも原曲だ。
まさかあのときは覚えてない、と言ってたが……覚えててくれていたのか?悠子。
悠子を見ると俺に微笑んでくれているかのようだった。
あれ?二人のムービー終わったのにまだ暗いまま。いや、さっきより真っ暗だ。
隣にいた美守も、同じテーブルの三葉たちもいない。
目の前の大きいスクリーンに……一人の赤ん坊が映し出された。
これは、俺だ!!!
「和樹、いつまでこの世にいるの。」
その映像を映し出していたカメラの横に、死んだ母さんが立っていた。どういうこと?
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