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第75話 それぞれの道
式が終わって美守は電池切れかのように美帆子に抱っこされて眠ってる。今日はホテルに泊まるそうだ。
「普段あんなに踊らないのに……とても楽しかったんでしょうね……。じゃあみんな、お元気でー!」
彼女も悠子の母親として結婚式を見届けられてよかったんだろうな。俺たちの娘が嫁いだ。あんな小さかった赤ん坊だった娘が。
しかし美帆子は悠子の母親であることを捨て、今は美守を育てるため必死なのだろう。
たまには悠子にも会ってやってくれよ。俺に手を合わせるのはいいから。
ああ、美守とはもっと話したかったなぁ。彼がいなかったら俺は母さんに引っ張られて成仏し、最後まで見届けられなかったであろう。なんだったんだ、あれは。なんなんだ、美守。
俺は三葉に乗り移り……
「はーっ、やっぱり肉体あるのっていいなぁー」
ようやく喋れた。
「お疲れ様、大島さんでしょ?お茶どうぞ。」
ロビーのソファーで座っていると李仁がお茶を持ってきた。お前は勘がいいよな……。
「だってまたを開いて座ることしないもん、三葉。ふふふ。」
……しまった!また癖が出てしまった。足を閉じお茶を受け取る。横には俺の骨壷と写真も置いてある。
「悠子ちゃん、本当に綺麗だったわね……」
「ああ。お前たちのサポートのおかげで夢が叶ったよ。」
「悠子ちゃんに最後会わなくていいの?」
「……見れただけで満足だ。これ以上は……」
李仁は三葉の後ろの方に目をやって立ち上がり、手を振った。俺も振り返る。
そこには着替えた悠子と桐生がやってきた。連れてきたのは倫典と湊音だ。
「大島さん、数日前二人には話をしたわ。まだ信じられないでしょうけど。」
李仁がそう聞くと二人は頷き、特に桐生は戸惑っていた。そりゃこんな美人の三葉の中にごっつい俺が入っているなんてさ。
二人は三葉の前に座った。李仁たちには席を外してもらい、3人で話す。
「……でも僕は……湊音先生との剣道の時におかしいと思ってました。癖が大島先生と同じだったから。利き手も違ったし。言動も荒かった。でもやはりまだ乗り移ってたとかそんなファンタジーは信用できないですけどね。」
……癖でわかるとはな。大したもんだ、桐生……。
「でも、先生と試合がまたできるとは思わなかったです。もしわかってたら……もっと手加減なしで受けて立ったのに」
え、あれ……手加減してたのか?ニカッと笑う桐生。くそぉ、湊音の怪我がなければまた戦いたいのだが……まぁ俺の勝ちで天国に逝くからいいけどな。勝ち逃げ。
「和樹お父さん……なんか見た目は三葉さんだから変な感じだけど……今日はきてくれてありがとう。」
「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。席まで用意してくれて。」
桐生はまだ疑った目をしている。やっぱり信用できないよなぁ。
「もうこうして話すことはもうないと思う。……悠子たちの子供を抱きしめたかった、でもそこまで往生際の悪いことはしない。
桐生、悠子と生まれてくる子供……をよろしくな。」
「……はい。子供には剣道を習わせるつもりでいます。」
まぁその辺は子供の意思を大事にしてほしいが。それは嬉しい。悠子は大きくなったお腹を撫でる。その上から桐生も手を重ねる。
もう心配することないな……任せたぞ、桐生……。悠子も浮気すんなよ。男を泣かせるなよ。さっき倫典の目は真っ赤だった。
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湊音は式場のホテルで泊まるそうだ。疲れたろうな。泣きすぎて目が腫れてたし、普段呑み慣れない酒を飲んで。
「大島さん、悠子無事に式を挙げれましたね。……ホッとしてます。」
「湊音、お疲れ様。湊音も踊り頑張ったな。今日はゆっくり休むんだ」
手をがっしり握り合った。そして抱きしめたかったが、今は三葉の体なのでやめておいた。
李仁はそのまま自分のバーに戻るそうだ。披露宴会場でバーテンやってたのにまだ働くのか。
「さっきまではタダ働きなのよー。お金包んでもらったけど辞退したわ。だからさっさと本業で稼がないとー❤️」
元気だなぁ……。するといきなり李仁が三葉の腰を引き寄せキスをしてきた。
「あああああああ」
なんとも言えない声を俺の代わりに目の前で見てた倫典は出した。俺は声が出ない。だって舌を絡められて喋れなくなるほど濃厚なキスだったから……て、この体は三葉だぞ!!!!!
「ふふふ❤️あー、本当は大島さんとは生前中にキスしたかったぁ……。抱かれたいと思ってたのよねー。じゃあね❤️」
李仁は自分の口についた三葉の口紅を右手でスッと拭き取り去って行った。
倫典は悲しそうな顔をしている。お前もありがとうな。……ここまで色々と。そして彼は骨壷を持ち、苦笑いした。
車の中で、美守のことや母さんのことを話すと
「不思議なことが起きるもんだ……て、乗り移り自体も不思議なんだけどね。」
確かにそうなんだが……。倫典には俺の家族に写真を探してもらわなくては。
それよりも車酔いしたのか気持ち悪い。まさかまたこのまま意識を失って魂は抜け出て始末のだろうか。
長くて短い1日は終わった。
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