第76話 集えば

1/1
前へ
/85ページ
次へ

第76話 集えば

ジュウジュウジュウ……肉の焼ける音。 もくもくもくもく……煙が蔓延する。クセェ……。 「だからうちでやるのはまずいって言ったろ!カーテンにも匂いが着く!」 倫典は窓を開けに行った。彼は先週三葉と籍を入れたばかりだ。だからここの家の家主はおまえだから嫌なんだろうな。 「やっぱり李仁のバーでやったほうがよかったかなー」 たしかにそうだな、湊音。あそこならまだなんとか。 「いやよぉ……わたしのお店はおしゃれなお店なんだからっ!!!焼肉なんて似合わないっ!!」 おしゃれもくそもないよ、李仁。 「まあまあ落ち着けよ。目的はこれだけじゃないだろ?」 今日は普通の格好だな、倉田。 「ほんと相変わらずだな、六年経っても」 と、マイペースに食べているのは……室田だった。久しぶりに見たな。忙しいのにきてくれた。 ようやく婚活パーティーのメンバーが集まった。いつも集っていたあのバーにいた俺ら。いいおっさんたちがお酒や飯食ってワイワイしてたのを思い出す。 ゲスい話もした、まじめに仕事の話もした、たまに論争もした、そして慰めたりもした。 そして俺がやりたかった、焼肉をみんなで食べること。 寺に婿入りして忙しかった倉田と、役者として今や大人気の室田も来てくれた(こんなこと言うと湊音、李仁、倫典は暇そうに思われるがそうでもない。) 「大島くんの写真、かなりかっこいいの選んだね」 室田、気づいてくれたか?遺影は事前に選んでおくのをオススメするぞ。おまえは宣材写真使われるんだろうな。いいなープロに撮ってもらった写真。 「大島さんって写真写り悪いけど奇跡的一枚なんだよね。」 るっせぇわ、倫典! 撮り方が下手なだけ。 「あ、そうそう。大島さんの家族に探してもらった……悠子を抱いている大島さんの写真」 お、そうそう!見つかったか!どれどれ。見えない……。 「悠子ちゃん可愛いじゃん。」 「じゃなくて、大島さんもいい感じに写ってる。で、こっちが大島さん、美帆子さん、悠子ちゃんの3人の写真。 ちなみに悠子の結婚式の日は大島さんのお母さんの毎日だったらしいよ。」 二枚あるのか?どれどれ。……あ、母さんが見せてくれたあのスライドショーと同じ写真だ……。そしてあの日は母さんの命日……だからでてきたのか??? 二枚の写真は白い封筒に入れられた。 「大島さん、最後の頼みごと完了!」 と、仏壇に置いてくれた。ありがとうな、倫典。おまえには一番負担をかけたな。 「さぁ、煙も少なくなったしじゃんじゃん焼くよ!」 湊音が肉と野菜をバランスよく乗せる。そして次々と焼き、みんながそれぞれ手を出して口に入れていく。俺にも食わせろよ。 「あーうちに消臭剤あったっけ……匂い取らないと三葉に怒られちゃう」 「かと思って無効タイプの消臭剤買っておいたわ。」 と、李仁が段ボールを指差す。買いすぎだろ?でも気が利くな……。 すると食べてばかりだった室田が 「あ、そうそうご祝儀。もう渡さないと思うから。」 「室田さん……ありがとうございます……て、2つ……」 「出産祝いも今のうちに渡しておく。あ、両方とも内祝いいらないから、好きに使って」 ……そう。三葉が妊娠したのだ。あの結婚式の夜、気持ち悪いと感じたのは彼女が妊娠をしていたからだったのだ。 ……妊娠か。少し厚みのあるご祝儀袋……いくら入っているのか。さすが売れっ子の役者はすごいな。ありがとうよ、室田。 また彼はパクパクと焼肉を食べる。ビール片手に。マイペースなところが変わらない。噂によると美帆子と離婚してからは独身貴族生活に戻って楽しんでいるようだ。 「三葉、体調はどう?ここ最近色々あって疲れてそうだったけど。」 「うん、なんとか落ち着いてるよ。でもまだ匂いに反応しちゃうみたい。気持ち悪いって。」 三葉の本の出版と妊娠の辛い時期が重なってしまったものの、三葉は精力的にプロモーション活動をしていた。動いたり喋ってる方が楽だったらしい。 無理しないでおくれよ……。 でもその頑張りと支援者の協力もあり、俺をひき逃げした犯人の自伝の出版差し止め、ドキュメンタリーの放送や李仁のコネクションを使って本の売れ行きは好調らしい。(だからコネクションってなによ) 「なんかこの間、この本の映画化の話きて。僕が大島くんをモデルとした男性の役を頼まれてね。びっくりだよ。もちろんすぐオッケーしたさ。」 映画化まで……室田が俺を演じるって?笑えてしまうな。お前みたいに顔濃くないもん。 これで借金はなんとかなる……?と思ったら倫典の実家から援助があったようだ。ありがたい。 かと言ってゼロになったわけじゃないからこれからなんだけどな。 「式は子供産まれてからって考えるよ。その時は室田さん、呼ぶから」 「おう、楽しみだな。」 俺も呼んでくれるか?って。 もう無理だけどな。俺はずっとこの様子を仏壇から眺めていた。いつもと変わらぬ景色だが、1つだけ違う。腕の中にはスケキヨがいる。 俺の写真の横に、スケキヨの写真とあのアクセサリーのついた首輪も添えて…… もくもく……煙がまたひどくなってきた……
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加