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第77話 男の涙
スケキヨはスースーと俺の腕の中で眠っている。俺らが悠子の結婚式から帰ってきたら……いつもの座布団の上に横たわっていた。
もう長くはないとはわかっていたけど……。いや、こんなに生きたのは奇跡だったらしい。
いつもの病院が空いてなくて違う病院で診てもらったら、よく生きてましたねと院長は毒づいたらしい。
生きてて何が悪い……でも寿命を延ばしてしまったのは俺だったわけで。すまんな。
事の始まりは半年前に出来心でお前に乗り移れたら……と乗り移ったのが始まりだったんだ。
ありがとう、スケキヨ。
「乗り移りとか霊と話せるとかオカルトなことは昔は信じてはいなかったけどさ、寺に嫁いで僧侶の仕事してからそうでもないかなって思うんだよね」
倉田はホルモンばかり食い漁っている。口から滴る油、ホルモンは噛み切れないから嫌いだ。
「その、美守くん?五歳だよね……小さい子はみえやすいって聞くなぁ。小さいうちだけで大きくなると全くみえなくなるという事例もある。」
「槻山家は、みえるとかそういう人いないよ」
「相手の家系がみえやすいところもあるがその辺も謎だな。まぁみえないことに越したことはない。みえる奴は煙たがられて、それを隠すために苦悩してる。いやでもみえるからな。中には占い師になって上手くその能力を使ってるやつもあるけどな。」
美守はあの結婚式以来ここには来ていない。会いたいのだが美帆子が仕事忙しいのだろう。
「おーい、大島さんっ。今日は乗り移らないのー?」
「呼んでも無理だよ。ここ最近来ないんだよ、大島さん」
スケキヨが死んでからなぜかもうできなくなった。
いや、もういいや、て思うっつーか……なんだろう……。
「なんだよ、僕が来たのに会話できないのかよ」
室田、すまんな。
「大島くんと湊音くんと僕で美帆子の元夫同士の愚痴大会したかったのによぉ。大島くんともっと話したかった……みんないいよなぁ……。」
「室田さん……一番大島さんと仲よかったもんね……」
「恥ずかしい話、こういう歪んだ性格の僕には50近くにもなって親友ってのは居なかった。
もちろんここにいるみんなも大事な友達だけど大島がいちばんの親友と呼べるやつだった。……すまん、こんな歳で泣くなんて気持ち悪いよな」
室田は両目からボロボロと涙を流した。……そこまでして思っててくれていたのかよ。
「大島も喜んでくれてらぁ。一人でもそう思って涙流してくれる人がいる人生、最高だぜ。」
倉田は室田の肩をポンと叩く。次第に周りも泣き出して……俺のことみんな思って泣いてくれてるのか……嬉しいよ、ありがとう……。
「何おっさんたち集まって泣いてるのよ!」
と、気づいたら三葉が仁王立ちで立っていた。
「さらにこの匂い!!!勝手に焼肉?!……私も混ぜて!」
おい、三葉……気持ち悪くないのか?大丈夫か?つわりは?
男たちは涙を拭き、肉を焼き始める。
「よく焼いて。これは焼きすぎ!」
「三葉……大丈夫?あ、病院はどうだった?」
倫典は彼女に肉を差し出すとツルッと食べ、飲み込んでから
「大丈夫!二人とも元気だった。そしたら安心したのか悪阻もおさまったわー」
と満足げだが……、ん?
「二人?」
うん、今二人と言ったけど?倫典と三葉に目線が集中する。
「あ、言ってなかった?お腹の子供、双子なの」
双子っ?!双子っ?!
「倫典、聞いてないぞ……よかったな!二人!」
「ありがと、がんばっちゃった……」
とニヤニヤしながら倫典は照れる。……もしかして俺が倫典に乗り移った時の子供じゃないよな?な?
「さー、そろそろ肉も無くなったし……」
と倉田は部屋から出て行った。お前は片付けないのかよ。ホルモンばかり食い散らかして。
……三葉、双子か。高齢出産でもあるから心配だ……心なしか胸、でかくなったな。妊娠しても体のラインがはっきりした服を着てるから……くびれも無くなってきた。
仕事も講演会も無理しないでくれよな。
部屋も片付き、李仁が何箇所かに無香の芳香剤を置く。それで本当に取れるのだろうか。
そいや、みんな何故かスーツ着てるんだが匂い取るの大変だぞ。クリーニング出しとけよ。三葉は黒のミニのワンピースだ。全員黒系だな。
そいや何もしてねぇ倉田は……
「お待たせしました。片付けサンキューな」
と、クタクタのスーツを着てた倉田は袈裟姿になっていた。倫典は人数分の座布団を出し、みんな手には数珠を持っている。
「美味しい肉を食ったところで……この後完成したお墓に骨壷を納骨しに行くんだが……」
!!!!墓……墓がとうとう完成してしまったのか?そして……納骨……。
「骨壷を移すにあたってお経を。足は崩してていいぞ。三葉さんも無理しないで。30分あるからな」
……30分……!!!
「スケキヨの分も頼めるか?」
と、倫典。
「ああ、いいぞ。スケキヨも一緒の墓に入れるんだもんな」
そうなのか?!スケキヨも……。まだ腕の中で寝てるぞ……。
そしてお経が始まった。
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