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這い出したばかりの布団に、どさりともつれ込む。
崇の両肩をベッドに押しつけて、額に一度キスをして、唇にも一度。それからじっとこちらを見つめる藤丸を、ぎゅっと目を凝らして見返す。
「なに?」
「夢じゃない?」
「夢だって言ったら、信じるの?」
「信じない、本物だもん。ねえ、あの夜さ」
「その言い方」
「あの夜、だよ。やっぱりこんなふうになって」
「ああ、うん」
「俺も酔ってたけど、ののめ先生――崇さん、もっと酔ってて。俺達、何回もキスしたんだよ」
「それは……ごめん」
「はは、でもさ。いよいよって雰囲気になった瞬間、寝落ちするんだもん。そりゃ、下心があった俺が悪いんだけど。朝起きたらあんまりきれいに忘れてるから、ちょっと意地悪したくて、あんな言い方しました」
「効いたよ」
「最初の魔法は、でも、崇さんからだよ」
ふわりと軽い毛先が顎をくすぐり、オレンジの匂いに襲われる。左の鎖骨の少し下、あの夜残した跡を再現するように強く吸うから、じん、とする痺れに、思わず声が漏れる。
「俺を誘った時の崇さん、すっげー、エロかった」
「そう。今は?」
間近の端整な顔から、楽しむような揶揄の色が消えたのがわかる。
「――今も」
熱い息が耳元に吹き込まれて、抱きすくめられた。
「ほんとに、いいの?」
「もう待てないんでしょ?」
「えっ、あれ……もしかして、崇さんの待つって、そういう意味だったの?」
「おかしいかな」
「おかしくはないです……知ってたけど、崇さんって男前だよね」
「そう?」
「そうだよ」
笑い含みのキスを一度して、服を一枚脱がせて、またキスをして、今度は脱がされて。何度も繰り返して右足から靴下が抜ければ、身に着けるものはなくなる。レンズを通さない視界はぼんやりとあまりに不完全だが、今はそれくらいがいいと思う。裸になった彼の肢体をくまなく見てしまったら、今だって早鐘の心臓がどうなってしまうかわからない。
「触る、ね?」
ふくらはぎから太腿にかけて撫でる手に、また喘がされる。
「ん……でも、怖いな」
「俺?」
脇腹を這う手に手を重ねると、少し躊躇うように弱まるから、そうではないのだと甲を撫でる。それから、見えていなくても正面を向いてはとてもできないこと――布団に片頬を埋めながら、彼の太腿の間に手を伸ばした。
「これ……でしょ?」
「あ、うん……」
温かくて、ぴくりと脈打つ、重力に逆らって持ち上がったもの。知っているけど、男を誇示して怯ませる存在感。
「こんなの。反射できみを突き飛ばしたら、俺も立ち直れない」
「……ねえ俺、崇さんの潔癖なのか大胆なのかわかんないとこ、すごい興奮する」
「やめて」
言葉通り膨らんだのがわかったから、慌てて手を離したけれど。ああ、と思った瞬間には自分も勃起していて、隠すために閉じた脚はあっさりと開かれてしまう。片膝を押し上げられると、抗いようもなく腰が浮く。彼の前に全部露わになっているのだと思うと、嫌でも熱くなった。
「……あんまり、見ないでよ」
「うわ、やばい」
低くかすれた声で言って、まるで美味な食材でも見つけたかのように、赤い舌をぺろりと覗かせる。
彼の手や舌はとても優しく、それ以上に艶めかしかった。
時間をかけて中をほぐし、目蓋、頬、唇、首筋、胸やへそ、昂ぶった場所にも何度もキスを施す。解放には程遠い、行き場のない快感に、びくびくと身体が跳ねる。
「ふっ……」
「ごめんね」
暴れる腕を捕まえ、柔らかくさすりながら、汗ばむ尻に唇を押し当てる。乱れるよう仕向けるのも、気遣わしげに宥めるのも、同じ男。その狭間でただ翻弄される崇は、感じるまま泣き声とも鳴き声ともつかない声を上げている。
身体じゅうのあらゆる場所に、生まれて初めて他人の唇や舌が這う。その度に、信じられないくらい身悶える。そうやってどれくらい蕩けていたのか、少し肌が遠のいた気がしてうっすらと目を開けると、たぶん目が合ったのだろう。妖しく誘う光を見る。崇に跨ったままの藤丸が、ゆっくりと自らのへそに手を這わせ、そのまま撫で下ろすように自分を扱き始めた。彼の腹の下から見上げたその仕草は、控えめに言って絶景で。
「藤丸くん……」
ぼうっと呼びかけながら、その手から彼を奪う。さっきと同じパーツとは思えないくら熱くて、血管が張り出していて、濡れている。明るかったり軽かったり、子供っぽかったり時折とても甘かったり、そういうのを一つずつ剥がしていけば、この凶暴な雄がむき出しになるのだ。持ち主は違っても、扱い方は同じそれを擦り上げて、くびれにゆっくりと指を入れると、また少しとろりと出る。
「あっ……」
藤丸の感じた声が伝染したように、感じてしまう。
「崇さん」
「ん……?」
「いい?」
「……いいよ」
膝を抱え、押して、慎重に手を添えながら、ゆっくりと入ってくる。
「あ……あっ……」
突き飛ばすとか、そんな余裕はなかった。巨大な圧迫感に、脳まで支配される。進むごとに声が出て、奥へ届いた時には、空っぽの肺からひゅうと音が鳴って。大きく突き上げられた瞬間、むせ込むように喘いだ。
ひたむきに腰を振る藤丸の息遣いが、どんどん荒くなっていく。横抱きになって、上に乗せられて、また押し倒されて、声と息を絶えず漏らす口元に涎が伝うのを、舐め合って。
「崇さん……好き……」
何回、何十回、彼はうわ言のように繰り返しているだろう。
「……俺っ……どうしようっ……」
どうにでもしていいよ、と、声にはならない。
いつも彼ばかりが夢中だとでも言うような口ぶりだけど、本当のところ、自分も似たようなものだと思う。
腕を伸ばし、彼の頬を撫で、背中を抱く。
美しい男だ。汗と涙と近視でぼやけた色彩だけで、こんなに美しいなんて。
胸と胸をぴったりと合わせ、一際深い所を抉った藤丸が、「いく」と背筋を震わせる。低く、甘く呻きながら精液を放ち、注ぎきれなかったそれを、崇の腹に撒き散らした。
ふーっ、ふーっ、と激しく息をする彼の下でそれに追い立てられるように自分を慰めていると、大きな手で包まれて、加速させられる。やがて達した崇を、骨が軋むほどぎゅっと抱いて。
「好き……」
彼は、くすんと鼻を鳴らした。
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