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 戻ったら、前の担当の山科がいた。どんな話をしたっけ。懇親パーティーがその後どれくらいで閉会したのか、スピーチはどんな内容だったか、そのあたりは、もうおぼろげだ。駅まで歩くと言い張ったのは憶えている。それに付き合って、そうだ、才川と藤丸も一緒に駅までの坂を下った。別れの挨拶はしただろうか、ちょうどよく着いた電車に乗り込んだんだっけ。混み合った車内で運よく目の前が空き、直前まで誰かが座っていたあのやけに温かい座席が気持ち良いような悪いような感覚で――    はっと目が覚める。  こういう場面ではだいたい、ほんの数駅しか進んでいなかったりするものだ。  周りを見回そうとしたが、ぼやけていて何もわからない。 (眼鏡……)  伸ばした手が、何か柔らかい感触に受け止められる。  重大な錯覚に気付く。  重力の向きが思っていたのと違う、今の自分は横たわっているのだ。今、右半身と頬を受け止めているのは、たぶん、布団。  もう一度、目を凝らす。  広がっているのは、鈍い銀色と鮮やかなアイスグリーン。  南極の氷山のような、秘境の海のような、外国の不味い菓子のような、不思議な色だ。  それに、かすかに鼻腔をかすめる、このオレンジのように甘くお香のように燻された匂い。  ゆっくりと肘をついて身体を起こすと、気配が伝わったように、相手も身じろぎをしたのだと思う。  視界の大半を占める色彩がうごめき、うーん、と唸る。 「――あ、ののめ先生、おはよ」
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