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京の都。
美しい月が妖しく輝く夜。
辺りは静まりかえり、人ならざるものが動き始める丑三つ時。
頭の男は仲間達と共に攫ってきた女子供を抱え、静かな道を歩いていた。
攫われた者達は口元に布を巻かれて声が出せず、手足を縛られ、なすがままに運ばれている。
「こいつらいくらで買い取って貰おうか。」
「今回は見目好い奴が多いから、高く売れるだろう。」
仲間達は攫い終えた為か、緊張が解け、口々に今後について語っている。
それに対して頭は厳つい顔のまま辺りを注意深く観察していた。
「おい、そういった話は後でしろ!誰かに見つかったらどうするんだ。」
小さな声だったが、仲間達は一斉に黙り、再び辺りは静けさに包まれた。
「おやおや、こんな夜更けに一体何をしているんだい?」
どこからか女の声が聞こえ、男達は顔を青くし、慌てて辺りを見渡した。
だが、どこにも女の姿は見えない。
人ならざるものの仕業かと思い、男達はより一層顔を青くした。
「どこを見ているんだい。そんな所にアタシ等は居ないよ。」
先程の声よりも鮮明に聞こえ、一斉に男達は声の方を向いた。
男達の目に映るのは何の変哲もない長屋。
視線をゆっくりと上に向けていく。
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