星のパラソル計画

1/1
前へ
/5ページ
次へ

星のパラソル計画

 花村が提唱したのは、『星のパラソル計画』であった。 その実態は、傘状の太陽光発電衛星(たいようこうはつでんえいせい) のことである。  宇宙空間に巨大な太陽電池を搭載した衛星を配置し、太陽光エネルギーを 地球に送ってエネルギー源として用いるという、宇宙太陽光発電システムと 呼ばれる構想は、1960年代から提唱されていた。  花村はそこに太陽光から得た電力を元に、人工的に霧雨を起こして 地球全体の熱を下げようという計画を持ち出したのだ。  反対意見はあったものの、このままでは地球は人が住めない星に なってしまうという危機感は世界共通であり、花村の案を元に 巨大なプロジェクトが始まることとなったのである。  しかし『星のパラソル計画』が動き出した途端、大国であるアメリカが 突如名乗りをあげた。「我が国がリーダーシップをとる」と。  するとロシアや中国などの国も次々に名乗りをあげていった。 科学者たちに混じって、各国から送り込まれた政治家が激しい論争で 加わるようになり、計画は頓挫(とんざ)した。  これに強い危機感を覚えた花村は、「早く計画を始めないと」 と何度も伝えたが、各国の争いは治まらなかったのである。 「どうすれば、どうすればいいんだ。争っている間にも 人々は暑さで苦しんでいるというのに」  花村には発案者としての立場と責任もあり、眠れなくなるほど 悩み苦しんだ。一人苦しむ花村に寄り添ってくれる家族だけが 心の拠りどころだった。  そんな中、花村の愛娘、瑠奈(るな)が言ったのだ。 「大きな、大きな日傘なんでしょ? だったら世界中の人たち みんなのものだわ。だれが(どこの国)やるか? じゃなくて みんなでやればいいのよ。だって地球は世界中の人たちのものだもの」  幼い娘らしい、実に素直は言葉だった。 「そうだね、地球はみんなもの。だれが(どこの国)やるか? じゃないんだ」  花村は娘の言葉を力に、もう一度立ち上がることにしたのだった。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加