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花村の決意
「皆様に見ていただきたいものがあります」
花村は会議の場で、壇上に立つと全員に告げた。計画の発案者として
認知されている花村を止めるものはいなかった。
花村はパソコンを通して、録画映像を各国の代表者に見せ始めた。
まずそこに写っていたのは、花村の娘、瑠奈であった。
『地球はみんなのものよ。星のパラソル計画もみんなで仲良くやれば
いいのよ。地球のみんなで日傘をさしたら、きっとステキだわ」
朗らかに笑う瑠奈。可愛らしい笑顔は場を和ませたが、突然
始まった幼い子どもの映像に怪訝な顔をするものもいた。
「この子はどこの娘さんだね?」
某国の大臣が聞いた。
「私の娘です、大臣」
失笑がもれた。当然だろう。いくら家族が大事でも、世界の会議で
出すべき映像ではないからだ。
「続きあります。ここからは私の娘ではありません」
映像の人物は金髪の少年に変わった。アメリカの少年であった。
「星のパラソル計画って面白そうだね。そんな楽しい計画を
独り占めするんじゃなくて、みんなでやればいいんだ。
そうすればきっと、何倍も楽しいよ」
また映像の人物が変わった。今度はロシアの少女であった。
「星のパラソル計画って名前がロマンチックね。
ロマンチックな計画でケンカしちゃダメだと思う。
みんなでロマンチックを共有すればいいと思うわ」
次は中国の少年だった。どの国のこどもたちも、実に子供らしい
素直な言葉を伝えてくれた。つまり『世界の人たちみんなでやろう』と。
花村は世界を飛び回り、世界の子どもたちに星のパラソル計画の
インタビューをしたのである。友人のジャーナリストが協力してくれた。
会議の場が静まった。まさか世界中のこどもたちが出てくるとは
思わなかったからだ。
「子どもたちの意見はわかった。しかし政治を幼い子どもたちに
委ねていいわけないだろう?」
別の国の政治家がいった。これに対し、花村は猛然と反論した。
「政治? 星のパラソル計画は政治なのでしょうか?
関係ないとはいいません。しかしこれは、熱くなっていく地球を
救うための計画です。この計画はおそらく何十年と続くはずです。
となれば今の映像に写った子どもたちが、未来の担い手となるのです。
地球は我々大人のものでしょうか? 私達の一存で未来の担い手たちの
希望を捻じ曲げることがあっていいのでしょうか? 私は今一度皆様に
問いたいと思います。この計画は誰のためのものですか?」
花村の真摯な言葉は、会場全体に響いていった。
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