#2 魔法使いのノワールさん

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「くそ、このままじゃあ追い付けん! 二人で止めるぞ!」  追い駆ける魔法使いの怒りはますます増したようで、それは男の声にありありと込められていた。けれどその魔法使いも魔女も立ち止まり、棒を握って眉間に皺を寄せている。ノワールがその姿を見れば、一目で彼らが魔法を使っていると分かったはずだが、前にばかり目を向けている現状では、仕方のない話だった。 あおいとノワールの目の前では、木で組まれた窓枠がめきめきと大きくなっていき、徐々に光を遮っていく。使われた魔法が効果を発揮しはじめて、ノワールはようやくその存在に気づき、なお一層足を速めた。そして、あおいは別のことに気づいた。 「ねぇ、ノワールさん、もしかして、あの窓から、飛び出すつもりじゃあ、ないでしょっ!?」 「もちろんさ。他の出口もあるけど、僕一人じゃああの魔法使いたちには勝てないからね」  あおいの顔からさあっと血の気が引いた。心臓の鼓動がさっきまでとは全く違う理由で早くなる。 「無理! 死んじゃう!」と、あおいがいくら叫んでみたところで、窓は徐々につるのようなものに覆われていく。射し込む光が弱くなりつつある窓に、あおいとノワールはぐんぐんと迫っていく。 「上手く落ちれば大丈夫! さあ、跳んでっ!」  そう言って、ノワールは階段を駆け上がった勢いのままに、その大部分がつるで見えなくなった窓に、全力でぶつかった。 「いっ、いやああああああああああああああああああああああ!!」  ガラスが砕け、それに伴って生まれた盛大な破砕音を塗り潰すほどの声量であおいは叫んだ。砕け散ったガラス片がキラキラと陽光に輝き、窓枠から手を伸ばすつたを振り切って、あおいとノワールは一面に広がる空と、それから石とレンガの鮮やかな街並みに飛び込んだ。広がる風景を視界におさめ、けれど美しいとか、綺麗だとか、そういった感想を何一つ抱く余裕もなく、二人は虚空を駆け下りていった。
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