#1 物語の始まり

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 それから飛行機が二機飛んで、同じように飛行機雲ができては空に掠れて消えていったころ、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。あおいはまったく救われた気持ちにならなかった。放課後まで今日はあと三回もテストが返ってくるのだ。あおいは、降りることのできない観光バスで地獄をツアーして回っているような気持ちになった。しかも、それが終わっても終業式というものが控えていて、そこでは毎回のように長話をする校長が、一週間前から練りに練った話を披露したくてうずうずしているのだ。  あおいの心身にもたらした少なくない疲労と、二人の女子生徒を貧血で保健室送りにするという成果をもって終業式は終わった。その後のホームルームでは成績表なるものが配られたが、中をちらっと見たあおいはそれを見なかったことにした。まともに向き合うと、気分と頭が重くなると思ったのだ。ホームルームが終わると、あおいのクラスメイト達はみんな思い思いに鞄に荷物を詰めこんだり、詰めこめなかったりしている。詰めこないのは大抵男子で、ロッカーや机にいつも教科書やノートを置いて帰るものだから、それが溜まってとんでもない量になっているのだ。そんな彼らの日に焼けたネイビー・ブルーの通学鞄はパンパンに広がっていて、それはまるで食べ過ぎてふくれてしまったお腹を連想させた。あおいはテスト期間に入ったころから終業式を見越してちょくちょく荷物を持って帰っていたので、すかすかの軽い鞄を肩に下げて浮ついた空気の漂う教室を出た。今日は真っ直ぐ家に帰らず、図書館に寄る予定だった。あおいは下駄箱で脱いだスリッパを用意していた上履き用の袋に入れて通学靴を履くと、しばらく訪れない校舎に別れを告げた。
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