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「え?」
「この世界の問題は、わしらの問題じゃ。わしらが考えて、どうにかせんといけんことなんじゃ。……巻き込んでしもうて本当にすまなんだ」と、言って、お髭の魔法使いは突然、あおいに頭を下げた。年上の人に頭を下げられることなんてなかったから、あおいは動揺して、
「お、おじいさん、顔を上げて! お願いだから! そりゃあ、びっくりはしたけど、でもノワールさんと会って、色々不思議なものを見て、おじいさんとも会えたし、良かったことだってあるんだから。それに、わたしじゃないと、この世界は救えないんでしょう?」
あおいがそう言うと。お髭の魔法使いは顔を上げて、すぐまたうつむいた。長い眉毛と髭のせいで表情がよく分からないが、きっと悲しそうな顔をしているのだろうとあおいは思った。お髭の魔法使いは、しばらく黙って土を見ているようだったが、あおいがどうしようと思い始めたころに、ぽつと口を開いた。
「終わりは、悪いことばかりじゃない。いつか終わる時がくるからこそ、今に価値があるんじゃ。わしはこの年になるまで、それに気づけなんだ。ぎょうさん時間を無駄にしてきたもんじゃ」
「だったら、この世界がなくなってしまっても良いって言うの!?」
あおいは怒鳴った。
「なにごとにも、いずれ、終わりはくるもんじゃけえ」
しかしお髭の魔法使いは全然動じた様子もなく、ひょうひょうと、そんなことを言った。何を言っても無駄だという、そんな無力感があおいに突き刺さった。
あおいは悲しくなって、そして気がついた。あおいだけが大魔王に対抗できる、というノワールの言葉が、いつの間にかあおいの中で大きくなっていて。自分がなんとかしないといけないんだ、と、感じていたプレッシャーの影で、いつしか、たくさんの人から頼りにされることの充実感が芽生えていたのだ。
「そんなことじゃダメだよ」
と、突然聞こえた声に、あおいは振り返った。そこにはしわの魔女とノワールがいて、二人は家から畑に向かって歩いてきている。
「朝ご飯が冷めてしまうけえ、どこ行ったかと思って探しに来てみれば。……いいかい、あおい。世界を救うことができるのは、あんただけなんだよ。あんただけが、ここに暮らすみんなを助けることができるんだよ。そのことを忘れずに、よう考えておくれ」
しわの魔女のその言葉は、あおいの心の、深いところに突き刺さった。
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