#5 妖精の泉と大魔王の手下

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 あおいは森の中を進んでいった。蛇がでたら嫌だな、と、心の中でちょっとだけびくびくしつつも、お髭の魔法使いが教えてくれた、「蛇は臆病な生き物じゃけえ、あおいが堂々としとったら、勝手に逃げていくもんじゃ」という言葉を信じて、勇敢な足取りで歩いた。木々の間をしばらく歩くと、突然森が開けて、あおいの目の前に、綺麗な泉が広がった。泉は底まで透明に透き通っていて、小さな魚たちが楽しそうに泳いでいる姿が見えた。泉にも羽の生えた妖精たちがいて、ちょん、ちょんと足をつけて水面をゆらし、魚が集まってきては、ひょいっと飛んで逃げるという遊びをしていた。あおいが、どこかへ座ってこの愛らしい妖精たちを眺めていようと思ったその時だった。視界の端のほうで、青白い光が走った。光は泉のまん中くらいまで駆け抜けて、空気に溶けるように消えてしまった。あおいは思わず光の出所を探した。そして、泉のほとりに立つ一人の青年を見つけた。青年は、紺色をした、腰までくらいしか丈が無い半袖のローブを着て、脛あたりできゅっと絞った白いズボンを穿いている。ツンツンと尖った荒くれ放題の短い髪に、三角帽子を被せていない青年は、泉のほうに杖を向けていた。あおいは頭にカッと血が上って、気がついた時には、青年に怒鳴りかかっていた。 「あなた! 一体なにしてるの!? 妖精になにか恨みでもあるわけ!?」  すると、青年は突然現れて、その上いきなり声を荒らげてくるあおいにびっくりした。けれど青年は、あおいがなにも知らないのだということにすぐ気づくと、彼女の凄まじい剣幕にも負けずに言い返した。 「あのなあ、こいつらにおれの魔法はきかねえの。それどころか、おれが魔法の練習してるといつも寄ってきて、からかってくるくらいなんだぜ。つうか、悪い魔法使いと大魔王の手下以外、妖精をどうにかできねえってのは常識だろうが。お前、おれが悪い魔法使いか、それとも大魔王の手下に見えるのかよ?」  あおいは、どうやら自分の勘違いだったと分かって、何日も水をもらっていない花のようにしょげた。けれどあおいの中の、引っ込みのつかない心が、 「でも、知らなかったんだからしょうがないじゃん」  と、小さな声を絞り出した。それを見た青年は気の毒になったのか、 「まあ、なにも知らなかったらそりゃ、おれが妖精達に魔法うって、いじめてるように見えるよな」  と、あおいを慰めるように言った。それでもあおいはうつむいて、顔を上げようとしなかった。
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