#5 妖精の泉と大魔王の手下

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#5 妖精の泉と大魔王の手下

 魔法使いの隠れ里にやって来てから、あおいの時間はあっという間に過ぎていった。午前中はお髭の魔法使いと一緒に畑に出て、しわの魔女が作った美味しいお昼ご飯を食べたら、それから少しお昼寝。目が覚めたら、しわの魔女に編み物の魔法を教えてもらって、その後、一緒にお夕飯の支度をする。夕ご飯を食べたらお風呂に入って、ノワールと眠くなるまでお話ししてから、おやすみと言って目を閉じる。そんな毎日は楽しくて、いつのまにか、二十日も経っていた。その間、大魔王の話も、大魔王の手下の話も全く耳にしなかったから、あおいはそのことをあまり考えなくなっていた。 「あおい、今日は、里を散歩でもしてきんさい」と、朝食を片付けながら、しわの魔女が言った。 「野菜にお水だけあげたら、そうしようかな」  毎日畑に向かうお髭の魔法使いは、今朝はダイニングにも起きてこなかった。昨日、あおいがあんまりにも美味しい美味しいと言ってスイカを食べるものだから、お髭の魔法使いはここぞとばかりに張り切って魔法を使い、たくさんの甘いスイカを作ってみせたものの、その代償として腰を痛めてしまったのだ。ノワールは、そんなお髭の魔法使いを一日看病すると言った。  あおいはお髭の魔法使いに申し訳なく思って、教えてもらったことを一つずつ思い出しながら、野菜に、いつもよりいっぱい丁寧にお水をかけてあげた。畑は広い上にたくさんあるが、お髭の魔法使いから水やりの魔法を教えてもらったあおいは、一時間も経たない内に野菜の水やりを終えた。お昼までにはまだまだ時間があったので、しわの魔女の言うように、里を散歩してみることにした。しわの魔女に、お昼までには戻るから、と言うと、「気をつけていってらっしゃい」と返ってきた。あおいはお気に入りの、白い編み上げのブーツサンダルを履いて丘を下る。ぐねぐねとした下り道を歩いて、田んぼ道までやってきた。陽射しが強かったので、あおいは早いうちに木陰に入ろうと思った。田んぼ道を途中で折れて、右手に見える森の方を見ていると、森の茂みが一部抜け落ちて、人が土を踏んでできた黄土色の道を見つけた。そこまで行って、あおいが少しだけ先の方をのぞいてみると、どうやらゆるやかではあるものの、それは上に昇っていく道のようだった。少し進んだ先が曲っていて、どこにつながっているのかわからない。その先に、民家があるような気はしなかったので、あおいはその道に入ってみることにした。木がたくさん生えていて道には影ができていたし、なにより、さあ、と吹いてきた風が心地よかったのが決め手だった。
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