#2 魔法使いのノワールさん

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#2 魔法使いのノワールさん

 あおいが眼を覚まして、ぼんやりと霞む目をごしごしとこすると、そこに広がっていた光景に驚いてびくっと肩を震わせた。 「……え、なにこれ。どういうこと?」  あおいは灰色一色に染め上げられた、牢屋と思われる閉じられた場所の中にいたのだ。あおいが身に着けていたのは、半袖のTシャツと黒のハーフパンツ、それから黒と白のスニーカーだけである。腰のそばに、あおいが普段使っている眼鏡が転がっていた。すぐにかけると、あおいはちょっとだけ落ち着くことができた。 同じ顔をした石がそこら中に敷きつめられ、それはみんなあおいを見つめていた。にこりともしない彼らに囲まれているうちに、あおいの心までが冷たい灰色に変えられていく。それから逃れるためにあおいが顔を上げると、絶対に逃がさないぞ、とばかりに胸を張って並び立つ鉄格子があった。その反対には壁と小さなベッドだけがあって、薄暗い牢屋の中では、真っ白いシーツでさえも灰色に染まっていた。  あおいはどうにか立ち上がって、使命に忠実な鉄格子によたよたと近付いた。右の方に小さな出入り口があって、そこには頑丈で重そうな錠が、この上ないほどに、鉄格子と仲良くしていた。あおいは鉄格子の一本を握った。情を感じられない冷たさが掌に広がった。それからためしにと、あおいは鉄格子を力いっぱいにゆさぶって、それでもビクともしないことが分かると、ベッドの足に背中をあずけるようにして冷たい石の床にうずくまった。それ以上、あおいにできることはなにも無かった。大声を出して助けを求めても、恐ろしいものがやって来ないとも限らない。そもそも、こんなえたいの知れない場所にまで、一体誰が助けに来てくれるというのだろう。あおいはそんな人物の姿をまるで想像することができなかった。
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