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1ヶ月前の話。
1ヶ月前。
私、住永沙良には何もなかった。
信頼できる友人や家族もなく、趣味や夢、希望さえ無かった。
君と出会うまでは。
「沙良」
彼が私を呼ぶ。
空は青々としていて、雨上がりの水溜まりはキラキラと光っている。
良い天気だ。
「どうしたの?奏斗。」
彼のワイシャツは少し濡れていて、何かを抱えていた。
猫だ。
「川で猫が溺れていて…濡れちゃった。」
あはは、と少し笑いながら彼は猫を地面に降ろし、濡れたワイシャツを絞り始めた。
ポタポタ、と水が垂れる。
「助けてあげたんだね、いつもみたいに。」
彼は口数が少ない人だ。だが、困った人は放っておけないし、見て見ぬふりが一番嫌いな性格だ。私はそんな彼にいつも惹かれていた。
「うん。これから学校だけど…間に合うかな、」
今の時刻は8時20分。
ホームルームが始まるまで後10分しかなかった。
「あ、やばい遅れる。走ろう!」
彼の手を引っ張り私は慌てて走り出した。
☆☆☆☆☆
「ま、間に合った…。」
息を切らせながら私達は教室に入った。
私と彼は3-B組。同じクラスだ。
「櫻木奏斗、住永沙良、お前ら遅いぞ。」
「琴音ちゃん、俺ら間に合ったじゃないっすかー!」
「琴音ちゃんじゃなくて、佐々木先生な。」
佐々木先生は私達のクラス担任だ。
凄く可愛い…というか美しい先生だが、見た目と口調はクールな印象が強い。
「ごめんなさい、佐々木先生。奏斗が猫を助けてたら遅れちゃって…」
優しいじゃないか、と先生は笑いながら言う。
ははは、という笑い方はまだしも、その笑顔はクラスの男子の多くが魅入ってしまうような…ずるい人だ。
――まぁ、奏斗もその笑顔に惹かれたんだろう。
私と出会う前、奏斗は佐々木先生が好きだったそうだ。今は、知らないが。
「まぁ、学級委員の住永が言うなら本当だろうな。
…そうだ、住永。放課後少し手伝ってくれ。奏斗もな。」
えー、なんで俺まで。そうぶつぶつ言いながら彼は席に着いた。
――彼は少し嬉しそうだった。
「奏斗」
「なんだ?沙良、」
「…今日お前サッカーの試合見に行くとか言ってなかったか?」
あー、と嘆きながら彼はまぁいいか、と言った。
「来週も行くしね!」
ニカニカと彼は笑う。
「勉強しろよ…」
奏斗と私は付き合っている。
付き合ってはいるが…奏斗は、まだ佐々木先生が好きなんだと思う。
「…邪魔なんだよね、」
え?なんか言った?と、奏斗は言う。
「いや…なにも」
なんだか、胸騒ぎがしますね。
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