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数メートルだけ進んだ僕の足は、坂道の途中で闇に纏わり付かれたように、アスファルトを踏みつけた足裏をどうやって持ち上げればいいのか分からなかった。
「そうだな。多分俺は……一生忘れる事なんて出来ない」
だけど僕の隣に立っていた一村は、平然と坂道を上り続け、大きな背中はどんどん遠ざかる。
「一村ッ!」
僕は。
肝心な時に、逃げ出した卑怯者だけど。
お前が一番辛い時に、自分の事しか考えていなかった大馬鹿者だけど。
どこにいたって、どんな時だって。
今度こそ一番に駆けつけられるように頑張るから。
だから────
「坂崎、」
一村の大きな背中がくるっと翻る。
視界に入ったその穏やかな笑みは、やっぱりあの頃とは違う。
「お前のお陰だよ……もしあの時、お前が俺たちの前から姿を消さなかったら、」
吐き出された言葉は、剥き出しのまま。
すり減った心は、赤く爛れたまま。
突き刺さった想いは、悲しみなんて安っぽいものじゃなく。
一度この世界を手離そうとした、一村の独白そのものだった。
「多分……俺は、ここにいなかった」
僕はただ、言葉の出口を失った。
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