僕たちの選択

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「カンパーイ!!」 なみなみ注がれたビールの泡が、ぶつけた弾みでジョッキの縁から溢れる。 慌てて渇いた喉に流し込んだ苦味は、最近ようやく慣れてきた程度で、正直僕は梅酒の味の方が好きだ。 「えぇー、」 全員が一口目を飲み終えた直後、幹事の河野が態とらしい咳払いをする。 「実はこの度……私、河野健(こうのたける)は念願の教員採用試験に無事合格しましたー!!」 「マジか!!」 「おめでとう〜!」 「お前が教師とか世も末だな!」 僕と、僕の彼女の透子(とうこ)ちゃんは一応、それなりに賛辞を呈する気持ちはあったのだ。だけど僕の隣に座る一村(いちむら)は、相変わらず男前の涼しい顔で河野を茶化していた。枝豆を摘む仕草もいちいち様になるからムカつく。 「まてまて諸君、戦いはこれからだ! てか一村、世も末とはなんだ! 俺たちの母校で教師だぞ! 青春じゃないか!」 拳を握りしめ、議員の演説さながら河野は嘘くさい瞳を輝かす。残念だけど、お前が女子高生目当てで教師を志願した事くらい、長い付き合いの僕たちにはバレバレだ。 「はいはい、そりゃさぞかし学校側も不憫な事で」 一村がジョッキを片手に鼻で笑い、 「何だよ、今日の〝長月会(ながつきかい)〟は俺のお祝いパーティーも兼ねてだろ!」 開始早々、河野は色白の顔を赤く染めている。興奮しすぎだ。 「まあまあ、河野くんも落ち着こうよ。皆んなで集まる機会もなかなか無いんだしさ」 透子ちゃんがビール瓶を持ち上げ、半分まで減った河野のジョッキにビールを注ぐ。 自分の彼女だというのに、その気品の漂う美しい横顔につい鼻の下を伸ばしてしまい、慌てて背筋を伸ばす。 これじゃあまるで僕も河野も同類だ。 「透子ちゃんはさぁ、こんなに可愛いのになんで坂崎なんだよぉ〜! そしてなぜ俺は彼女が出来ないんだぁー!!」 長月会ではお決まりの、河野のしつこい愚痴トークにも透子ちゃんは嫌な顔ひとつしない。本当に僕には勿体無いくらいの才色兼備で、一体なぜ僕なんだろうかと悩みだすと底なし沼なので止めている。 「河野くんは私なんかよりずっと素敵な彼女ができると思うけどなぁ。凄く優しいし、面白いし。ね、(りょう)くん?」 透子ちゃんがふわっと柔らかな笑みを向ける。相変わらず心臓に悪い。 「うーん、万年脳細胞ピンクのモエキュン先生だから無理だろ」 アルコールでほんのり色づく透子ちゃんの顔はモエキュンじゃなくて、エロキュンだ。 「無理だな、萌キュン先生に彼女が出来たら先生じゃなくなるからな」 一村が二杯目に頼んだ酎ハイを店員から受け取りながら云った。店員の背後には一村の拝顔に来た女性店員が数人、個室の入り口から顔半分を覗かせている。この光景にもさすがに慣れた。 「お前らさぁ、高校の時から思ってたんだけど、その奇妙なあだ名止めろよ! そもそもなんだよ、その……超? モエ?」 「チョーゼツモエキュン先生だよ!」 「超絶萌キュン先生だ!」
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