僕たちの選択

5/7
前へ
/16ページ
次へ
「坂崎はこっちに戻って来るんだっけ?」 河野が視線だけを僕の方に寄越し、黒い信楽焼の皿上に乗った出汁巻卵に箸を伸ばす。 「うん。地方上級に受かったし、こっちの行政で働くよ」 僕はちらりと透子ちゃんを横目で見た。 地方公務員は転勤が少ないんだよ。と言いたいけれど、これはまだ先の話だ。 「相変わらずガリ勉の安定ルートだな」 一村が彫りの深い目を細める。 男は安定が一番なんだ!と言いたいのを飲み込む。 「そう言う一村は決まったのかよ? さては僕たちに先を越されてあせ──」 「クウェートに行く」 「は?」 「え、どこ行くって?」 それはまるで、その辺の銭湯でも行くみたいに。 テーブルのど真ん中に山盛りになった、この居酒屋ご自慢のカリカリポテトを摘みながら、一村は平然とそう云ったのだ。 「なぁなぁ、どこ行くって?」 河野は飲みすぎのせいか、それとも馬鹿なのか、もしくは聞き間違いだと思いたいのか。 僕と透子ちゃんの顔を交互に見ながら、顔を赤らめオウムのように繰り返す。 「坂崎、一村どこ行くって?」 「クウェートだよ……河野くん」 透子ちゃんが諭すように小さく呟き、酔いが回ってもいないはずなのに、僕は怒り任せにビールジョッキを乱暴にテーブルへ叩きつけた。 「何でそんなとこに行くんだよ!」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加