僕たちの選択

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あまり耳馴染みの少ないクウェート国。 イラクとサウジアラビアに隣接する国で、外務省が発表している危険レベルも一時期に比べると落ち着いたけど、今だ渡航には不安が付き纏う不安定な治安情勢だった。 「一村……就職先ってどこだよ」 河野がジョッキを静かにテーブルへと置いた。僕は苛立ちを誤魔化すように揚げ出し豆腐を立て続けに口へ運ぶ。 「JICA(ジャイカ)って知ってるか?」 略称JICA。正式名称は独立行政法人日本国際協力機構。 国から供与されるODA(政府開発援助)を使用して、開発途上国を支援する独立行政法人で、採用の倍率は200倍とも言われる難関。 何よりも長期の海外事務所勤務を余儀なくされ、赴任先の大部分も開発途上国で危険が付き纏うということは知っていた。 「何で……何でそんなとこに……」 誇れる仕事だと思う。 環境破壊や食料不足、紛争やテロ。 地球全体の問題に取り組むために、開発途上国と日本を繋ぐための架け橋となる偉大な役割。 だけど。だけど何でお前なんだよ。 散々苦しんだだろ。 散々辛い日々を過ごしてきただろ。 それなのに、何でまた間近で苦しみや悲しみや、死を感じてしまうような場所を選ぶんだよ! この収まりそうにない憤りや、訳の分からない込み上がる感情は、きっと。 そう、きっと…… 僕は怖かった。 一村までいなくなるんじゃないかと、怖くて堪らなかった。 もっと平穏で、安全で、 「何でそんな選択するんだよ……」 僕のすぐ手の届くところに、居て欲しかったんだ。
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