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長月会がスタートし、必然的に顔を合わせる回数が多くなり、その頃から僕にはずっと気がかりだったことがある。
一村はあの日から、一度も彼女を作らない。
それでも僕たち三人は、決して探りを入れた
り背中を押すような事はしなかった。
だって僕たちの痛みは、一村とは別物なのだから。
どんなに分かり合えた親友でも、たとえ隠し事のない家族だとしても。
僕たちの心は決して同じ世界を見ているわけじゃない。
それなのに分かった風に寄り添う方が酷な気がした。
「一緒だな」「同じだな」なんて、口が裂けても言える訳が無かった。
僕は一村じゃない。
僕は河野じゃない。
僕は透子ちゃんじゃない。
かつて友人の草野が言っていたように、僕たちは生まれてから死ぬまで、ひとりぼっちなのだ。空っぽになったフラスコを満たす事ができるのは、自分でしかないんだ。
僕が唯一分かってやれるのは、腰抜けの僕の気持ちと。薄れつつある記憶の中で、確かに陽菜が生きていたという事実だけ。
どう生きていくのかを選ぶのは、結局自分自身で、流れる時間を、変わっていく日々を、止めることなんて出来やしない。
それでも〝このままでいたい〟なんて願ってしまう僕は、やっぱり腰ぬけなままなのかもしれない。
だけど最近、ふとした瞬間に見せる一村の表情が心配だった。
それはまるで、かつての僕を傍目から見ているような気味の悪い感覚で、その顔を見る度に一村の心がどこか遠くに行くんじゃないかと不安だった。
僕は三人のおかげで歩き出すことができたけど。
でも一村は?
本当にちゃんと前へ進めているのだろうか。
僕はこのまま、ただ見守るだけでいいのだろうか。
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