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 梅雨入りして数日。雨がざあざあと降る中、朱巳は、撃ち放たれた銃弾のように山道を下っていきました。傘もささずに走ります。もちろん、身体はずぶ濡れです。髪の毛もぺたんと頭皮に張り付きます。地面がぬかるんでいるせいで走るたび、はじけた泥が身体にまとわりつきます。その内のひとかけらがおおきく跳ねて、朱巳の目に飛び込みました。 「うわっ」  たまらず立ち止まり、目をごしごしとぞんざいに拭きます。すると、降りしきる雨に負けないくらいの大粒の涙が朱巳の頬を伝うのを感じました。悔しさ、悲しさ、情けなさ。さっきまで体を突き動かしていたものは大きな怒りでしたが、それもしょぼしょぼと小さくなっていくのを朱巳は感じていました。しばし、その場に立ちすくんだ後、ゆらりゆらりと、さっきまでと打って変わっておぼつかない足取りで朱巳は歩き始めました。
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