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そもそもは、小学校のクラスメイトに、からかわれたことが事の始まりでした。朱巳は、男の子です。平べったい平地から山の上にある小学校に四半刻ばかりもかけて毎日元気に登っていきます。しかし、もうすぐ中学生になる年でも、色が白くて、背もちびででした。そして『あけみ』という名前が、いじめっ子の心に引っかかりをつけたようです。朱巳が一緒に遊ぼうとしても、「女と遊べるか」と言って朱巳を仲間外れにする子達が出てきました。やがて、その動きは、クラスメイト全体に広がり、ほとんどのクラスメイト達が、朱巳を遠巻きにして、一部は小突いたり、また一部は物を奪ったり隠したりするようになりました。
極めつけは、今日の出来事です。学校が終わる際に、数人のクラスメイト達に囲まれた朱巳はランドセルを奪われ、傘も持っていかれました。濡れ鼠になって帰れ、とクラスメイト達の嘲る声が、激しく降る雹のように朱巳の心をずたずたに引き裂きます。言いようのない大きな感情が朱巳の中で膨れ上がり、朱巳は、クラスメイトたちを突き飛ばし、一目散にかけてきたのでした。
一緒に暮らす父と母には、学校で朱巳が受けている仕打ちのことは話していませんでした。親から賜った名前のせいでいじめを受けたと知ったら、どんなに悲しむでしょう。
しかし、こんなにびしょびしょに濡れて、泥だらけで、それこそ鼠よりみすぼらしいのではないか(朱巳は少なくともそう思いました)という状態で家に帰ったら、理由を聞かれてしまいます。そうしたら、きっと必死に胸の内に秘めてきた事柄は暴かれてしまうでしょう。そのことを考えると、ますます涙は止まらなくなりました。
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