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受けちゃダメだったの?
馬車で揺られること半日、見晴らしのいい平原で馬車を停めたわたし達はちょうど昼時ということもあって、休憩をしていた。
「エミール君、料理上手なんだね。美味しい。」
「それは良かった!お気に召したようでなによりだよ!」
エミール君の持ち寄った道具の中には調理器具などがあって、わたしとエミール君がそれぞれ素材を持ち寄って料理をしてもらった。わたしは料理なんてできないからね。
これは余談だけど、わたしが素材を出す為に倉庫代わりにしている亜空間から素材を引っ張り出したら、物凄く驚かれてしまった。普通は使えないんだとか。わたしの周りの人はなにも指摘してこなかったので気づかなかった。気をつけよう。
「ユウ、今後の予定だけど御者の人が言うには、ここから二時間ほどこのまま進んで山に入るとクィート村に着くみたいだよ。」
「まだ二時間もかかるんだ…。わたしそろそろお尻痛くなってきた。」
不貞腐れているわたしに、エミール君は苦笑した。そして、続きを話す。
「まず村に着いたら、村にあるギルドへ行こう。そこで聖教騎士団との段取りを取ってもらおうと思う。その後、合流したら聖教騎士団の指示に従おう。」
「今更なんだけどさ、この依頼二人以上求むってなってるけど、わたしとエミール君って両方とも後衛ってことになってるじゃん?大丈夫なのかな。」
一般的なパーティと言えば、前衛一人、中衛一人、後衛二人の計四人が基本的なパーティ編成となる。中には、前衛四人とか前衛一人に後衛三人と言った極端なパーティもあるものの、後衛二人だけのパーティなんてのは依頼者側も予想してないんじゃないだろうか?
「その心配はあまりしてないかな。聖教騎士団と言えば前衛職が多めな事で知られてるし、十二人いるなら聖女様を含めて四人程が後衛職じゃないかな。そうなると僕とユウを合わせれば前衛八人の後衛六人で問題ないと思うんだ。」
「なるほどねぇ。まぁ、いざとなったらわたし前衛出れるから大丈夫だけどね。」
「僕も多少は前衛もできるよ。矢が無くなれば戦えないなんて嫌だったからね。」
さすがに本職には敵わないけど、とエミール君は笑った。そう、エミール君は弓を扱うらしいのだ。まだ、戦った所を見たことがないから腕前とかはわからないけど、本人が言うには風の魔法と弓が得意だからそれで戦っているらしい。腰にはブロードソードをぶら下げていて、矢が無くなればソレを抜くんだと思う。
その後、休憩を終えたわたし達は特に問題もなく森の中へと入った。森に近づくにつれて低級の魔獣が襲ってきたりしたけど、そこはやっぱり低級なだけあって、出会い頭に対処することで問題なかった。
「やっぱり、なんらかの被害にあったんだね。随分寂れてる。」
クィート村に到着したわたし達は、村の状況はかなり酷いものだった。田畑は荒らされ、家屋も損壊している。人の気配はするんだけど、外に出ている様子はない。魔獣の襲撃に怯えて隠れて居るのかな。避難していない所を見る感じ、希望はまだ捨てていないのかも。
「僕が依頼書を貰った時より、かなり酷いよ…。僕がここを離れた三日間でさらに襲撃があったんだと思う。」
「とりあえず、ギルドまで案内お願い。」
「そうだね。こっちだよ。」
クィート村に入る手前で、馬車と御者の人には待機してもらっていた。なにがあるかわからないからね。状況を掴めたら呼びに行こうと思う。
徒歩のわたし達は、エミール君の案内でギルドクィート支部へと向かった。そういえば、ギルドのある村なんだし、冒険者も居たはず。その冒険者はどこに居るんだろう?…いや、この惨状を見れば立ち向かったのか逃げ出したかのどちらかだと思う。
村と言うだけあって敷地は広くなく、目的のギルドへは直ぐに辿り着いた。エミール君は一度訪れているからだろうけど、迷いなくギルドへ入って行ったのでわたしもその後に続く。
ギルドの中は活気などなくて、カウンターに歳老いたおじいちゃんが一人立っていた。エミール君はその人を知っているのか、これまた迷いなく話しかけた。
「三日前に依頼書を貰ったエミールです。王都から冒険者を連れて戻って来ました。この依頼受けさせてもらってもいいですか?」
「お、おぉ…。ありがたい。もちろんですとも、満足いく報酬は出せませんが、どうかこの村をお救いくだされ…。」
相当、切羽詰まった状況なのは明白でおじいちゃんは縋るようにエミールに頭を下げていた。…これは、なんとかしてあげたいね。
「報酬については、話し合っていて問題はないです。あちらにいる女性が今回王都から連れてきた冒険者の…」
「ユウ・アトライト。よろしくね。」
「こちらのお嬢さんが…?あ、いえ…失礼でしたな。こちらこそよろしくお願いします。」
まぁ、分かる。だってわたしの見た目なんて、武器なんて装備してないし防具も胸当てだけ、服装だってただの私服ですか?って感じだし。王都出る時もエミール君に言われたけど、その時はフィーナの「黙りなさい。ユウが似合ってればそれでいいのよ。」で撃沈していた。ここは不安を少しでも取り除いてあげた方がいいのかな?取り除けるかはわからないけど。
「大丈夫だよ。一応、これでも狐姫って二つ名?あるらしいからわたし。それなりに戦力になるから大丈夫。」
「「え………?」」
ん?なんだ?なんか、予想してたのと違う反応なんだけど…?エミール君も驚いちゃってるよ。言ってなかったけど、そんなに驚くことかな?
「ん?どうしたの。それより、依頼のことはいいの?」
「いや、待ってよユウ!僕、ユウが狐姫だったなんて聞いてないんだけど!?」
「え?あぁ、うん。言ってなかったね。わたしもそう呼ばれてるのは知ってたんだけど、それが二つ名だったって事を昨日知ったから。」
「そうだったの…?じゃ、じゃあ、一つ!一つだけ確認させて欲しいんだけど、冒険者のタグ見せて貰えないかな?」
そういえば、見せてなかった。エミール君が見せてくれたのにわたし見せてないのは、なんか違うよね。今気づいたよ。
「いいよ。今出す。」
わたしはブラウスのボタンを一つ外して…なんでエミール君顔赤くしてるのさ。あ、そうか。わたしが女だからってこと?配慮足りなかったかな?まぁ、いいか。
そのまま、首からぶら下げてあったタグを取り出して見せる。
「プ…プラチナ冒険者…。」
わたしとエミール君のやり取りを見ていたおじいちゃんが呟いた。うん、わたしのタグの色は白金。プラチナだ。冒険者登録して、フィーナに正体バレたらホワイト冒険者だったのに、このタグを渡されてめでたくプラチナ冒険者になった。
「ユ、ユウ。いいのかい?」
「ん?なにが?」
「この依頼の報酬はとてもプラチナ冒険者を動かせるほどのものじゃない。それなのに受けてよかったの?」
なんだそんなことか。良いも悪いも、わたしも依頼書見て条件や内容も把握した上で着いてきてるんだからいいと思うんだけど…。ん?それともあれかな?
「受けちゃダメだったの?」
「い、いや!全然そんな事ないよ!むしろユウが居てくれるのは心強い!」
「そう?ならよかった。このまま帰れって言われるのかと思った。」
「言わないよ!!報酬の取り分も後で話直そう!」
「取り分?なんで?半分ずつって決めたじゃん。あ、エミール君の取り分増やしたいなら別にいいよ。最悪、報酬なくても別にいいし。」
「…そうじゃないんだよなぁ……。」
んん?なんだ?エミール君がため息と共にガックリと項垂れた。なんだろう?難しいお話しはわたしには無理だよ。トーカが居る時ならまだしもね。
わたしが、よく分かってないで居ると項垂れていたエミール君が急におじいちゃんに向き直ったかと思うと興奮したように言った。
「と、とにかく!僕とユウに任せてください!そ、それと、依頼の詳細を話しましょう!」
「そ、そうですな!これでこの村は救われましたぞ!…ささ!お二方こちらへ!奥の応接室で話しましょうぞ!」
エミール君もおじいちゃんもそんなに興奮してどうしたの…。わたしには理解できなくて難しい…。やっぱりトーカが居ないとダメなのかもしれない。
そんなことを考えながらも、わたしはエミール君と共におじいちゃんの後に続いて、ギルドの応接室へと案内された。
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