聖女と騎士長

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聖女と騎士長

「私はこのギルドの支部長であり、この村の村長をしております。ドベルとお呼びください。」 ギルドの応接室に案内されたわたしとエミール君は、ソファに座ると対面に座ったドベルさんからそう言われた。 「その…狐姫様が来られたので、本来なら今すぐ依頼に取り掛かってもらいたいのですが…」 申し訳なさそうに言うドベルさん。この辺の難しそうな話しはエミール君に任せるとして、なんで様付けで呼ばれてるのかわからない。ユウって自己紹介したんだから、ユウとかアトライトって呼んで欲しいんだけど…。 「先程、ユウも言っていましたが僕達は事前にパーティとして依頼書の確認を兼ねて取り決めをいくつかしてきています。ですので、依頼書通り話を進めてもらって大丈夫ですよ。」 「そう言ってもらえると助かります。なにぶん、聖女様と聖教騎士団の皆様は既に周辺の警戒と巣の捜索をしておりますので…。」 あ、もう聖女とか来てるんだ。でも、そうだよね。きっと彼女たちの後押しもあって依頼書を作成したんだろうし。 「ユウ、これは早めに来て正解だったかもしれないね。」 「うん。聖教騎士団の成果がわからないけど、彼らが帰ってきたら早速加わらせてもらいたいよね。」 「そうだね。ドベルさん、この村で滞在する際はどちらを利用すればいいでしょう?」 「今、この村の宿屋はこのギルドのみとなっています…。冒険者も立ち去ってしまって、住人も魔獣の襲撃に怯えてそれ所ではないのです…。申し訳ありません。」 なるほど、と思った。ギルドが宿屋を併設するのは不思議なことじゃない。実際に王都のように宿屋が沢山経営している場所でない限り、ギルドに冒険者が寝泊まりするのは良くあることなのだ。 エミール君は頭を下げるドベルさんに慌てて声をかける。 「気にしないでください!では、こちらで部屋を借りて騎士団との合流を待つことにします。…ユウもそれで大丈夫?」 もちろん、わたしもなんの問題もないのでエミール君に微笑みつつ頷く。了承の意味を込めて。…だからなんで顔を赤くするのさ。そんなに興奮してた?エミール君。 人ってたまに不思議だなぁ、と思っているとドベルさんに案内されてギルドの二階へ案内された。わたしとエミール君は隣同士の部屋を借りることにして、個室の中で旅の疲れを取る事にした。騎士団は夕暮れ時には帰って来るだろうとのことなので、わたしはそれまで寝ることにした。 コンコンッとわたしの部屋をノックする音で目が覚めた。寝惚け気味の頭で、それに反応する。 「ふぁぁい?」 「ユウ?僕だよ。エミール。どうやら聖教騎士団の人達が帰ってきたみたいなんだ。帰ってきたばかりだから、話は後にしても挨拶に行こうと思って。ユウはどうする?」 「んぁー、いく。」 エミール君の話しを聞いているうちに徐々に頭が覚醒し始めて、身支度を確認する。…うん、寝る時と変わらない格好だし問題なさそう。 一応、服の乱れなんかを気にしつつドアの向こう側に居るエミール君の元へ向かう。ドアを開ければそこにはエミール君が待っていた。 「…寝てたの?」 「うん。」 そう言ったエミール君の視線は、わたしの頭の上を見ている感じがしたので、気になって頭の上を摩ってみるとやっぱりあった。 アホ毛と呼ばれるやつだろうか?重力に反してぴょこんと跳ねる毛がある。手櫛をしてみても直る気配はない。…放置することにして、エミール君に話しかける。 「聖教騎士団の人達が戻って来たんだよね?行こう。」 「う、うん。まだ下でドベルさんと話してると思う。」 …エミール君。そんなにジロジロ、アホ毛を見ないでよ。なんか恥ずかしいから…。 まぁ、わたしのアホ毛の話しは置いておいて、一階へと行けば懐かしい声が聞こえてきた。 「…という感じです。私達の方では、直ぐにでも隊を二つに編成して巣を同時に叩こうと考えているのですが…。」 「問題は冒険者ですか。…本当に必要でしょうか。俺には我々だけで問題無いように感じましたが…。」 「油断はなりませんよレリオ。私も騎士長レリオや団員の方々の実力は分かっているつもりです。それでも、魔獣は油断なりません。あの方ですら、魔獣に遅れを取ったのですから…。」 「セシリア様…。」 なにやら空気が重い…。聖女セシリアと騎士長レリオの会話を聞くに、巣は見つかったようだった。そして聖女セシリアが言うあの方とは、たぶん間違いなくユウジ・トウジョウの事だと思う。つまり、わたし。 エミール君といつ顔を出そうか、と悩んでいるとドベルさんが口を開いた。 「あの…聖女様。」 「あぁ、これは申し訳ありません。どうされました?」 「いえ…。その冒険者についてですが、今日王都プラミールから二名来られました。」 「なんと!それは嬉しいご報告です!その冒険者様はどちらに?」 お?これは、顔を出すタイミングじゃないだろうか? そう思っていると、エミール君が動いた。やっぱり今だよね。 「僕達が王都プラミールから来た冒険者です。僕はシルバー冒険者のエミール・ドラリオ。エミールと呼んでください。聖女様。そして、こちらの女の子が…」 「わたしはユウ。ユウ・アトライト。よろしくね。」 名乗ると、聖女と騎士長はこちらに振り返った。…反応は対極な感じ。聖女はまるで太陽のような微笑み。騎士長は怪訝な顔をしてる。予想通りな反応だ。 「あぁ、冒険者様方。ありがとうございます。私は聖国フェニエから来ました。セシリア・メル・フォールンと申します。聖女などと呼ばれておりますが、今はただの小娘です。平和を願い、魔獣を少しでも減らそうと各地を渡り歩いております。」 相変わらず、物腰柔らかく丁寧だなぁと、思う。セシリアは確かわたしの一つ下。クリーム色の髪は柔らかそうな雰囲気がある。肩まで伸ばして切りそろえられている。来ている服はとにかく白い。修道女が着るような修道服っぽい感じなんだけど、下は結構ミニのスカート。色も真っ白だ。戦闘なんてできそうに無いほど、華奢で細い身体付き。スレンダーって言えばいいのかな。まぁ、美少女である。 そして、隣の騎士長さんは相変わらず仏頂面だ。セシリアが挨拶をしたからか、仕方ないといった雰囲気を隠すこともせず、口を開いた。 「…俺は聖国フェニエの聖教騎士団聖女親衛隊団長、騎士長レリオだ。お前達冒険者の力を借りなくとも今回はなんとかなりそうだが、セシリア様のご意向でお前達の同行を認める。」 はいはい。って感じだ。この騎士長レリオはとにかくプライドが高い。若干二十五歳にして、国の宝である聖女の親衛隊の団長まで上り詰めた実力は凄まじいものなんだけど。やはり、若いのか自らの行動が聖女の評価に繋がるとは微塵も考えない行動は批判の声も高いらしい。…本人は気付いてないし、自分の行動はいつも正しいと思っている頑固者なのでどうしようもないんだけど。 とにかく、お互い自己紹介も終わった所で本題に入ることになった。ドベルさんに先程使った応接室まで案内されて、今後の打ち合わせを早速することになったのだ。調査帰りで疲れているだろうに、頑張り屋さんだと思う。 「私達が調べ上げてわかった事は、巣の位置です。相手はゴブリンとオーク。オークの巣は小さく、まだそれほど個体も居ないようでした。こちらは直ぐに片付くと思います。…問題はゴブリンの巣ですね。岩山をくり抜いたような洞窟を根城としているようで、見張り番を立てたりしている事から統率が取れて、個体数もそれなりの数が居ると予想できます。」 ゴブリンとオーク。戦闘力で言えばもちろんオークの方が強い。それでも、数が少なければなんの問題もない。ゴブリンは頑張れば駆け出しの冒険者でも倒せるだろう相手だ。それでも、小柄な姿からは想像もつかないほど力は強いので油断はできない。そして、もう一つ。ゴブリンは群れで行動する。その個体数はまちまちだけど、集団戦となるとなかなかに厄介な相手である。それに、今回のように統率が取れているとすると…。 「ユニーク個体の可能性もありですね…。」 「そうなのです。洞窟内部の事は調べられなかったので、どんな個体が居るのかまではわかりません。こちらの巣は相当用心しなければならないかと思います。」 これはなかなかに大変そうな依頼だなぁ。と呑気なわたしは、この重い空気から現実逃避していた。…苦手なのです。この感じ…。
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