ゴブリン夜襲作戦

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ゴブリン夜襲作戦

▽聖女セシリア・メル・フォールン 岩山の洞窟の入口。見張り番と見回りに動いていたゴブリン計四体を倒した後、私達は洞窟内部の掃討を始めました。 やはりなにかがおかしいです。私はあの方を失ってから魔獣について調べました。聖国フェニエで御飾りとして、民衆の治療に努めていたわたしは、初めて憎しみと言う感情を知りそして魔獣を減らすべく聖国フェニエを旅立ったのです。 その際に着いてきてくれた騎士長レリオとその騎士団、聖女親衛隊の皆様には感謝をしてもしきれません。彼らが居なければ、幾度も危ない場面がありました。おっと、いけませんね。話しが逸れてしまいました。これもあの方の影響でしょうか…。 と、とにかく、私は魔獣という生き物の生態や種類、倒し方など様々な事を調べてきました。その知識からしても、このゴブリン達の行動は異常という他ありません。 上位個体が居ればある程度の統率が取れ、行動にも変化が訪れます。ですが、見張り番や見回りなど立てるなど事例がありません。 今の所、対処はできていますが、そうなると心配なのはオークの巣へ向かった冒険者様方です。名をエミール様とユウ様と仰っていましたね。 彼ら冒険者様方も、これまで幾度となく魔獣退治をしてきたはずですが不安は拭えません。特にあの女性。ユウ様はプラチナ冒険者とは、とても思えないほど危機感を感じられないお方でした…。あれは、力持つ者だからこその余裕なのでしょうか。少なからず、私は彼女をどこか引っかかりの様なものを感じました。 「セシリア様。あの冒険者共の事をお考えですか。」 いけません。あちらの心配ばかりで気を取られていました。私達も似た様な状況なのです。心配をするならば、こちらを済ませてから救援に迎えば良いのです。 先頭を歩くレリオに声をかけられ、半ば無理矢理ですが、意識を戻すことができました。 「少し。ですが、こちらも危険なのは変わりありません。今の所、遭遇するゴブリンが単体であるのは幸運ですが、そろそろ中枢に入ります。一層の気の引き締めを。」 「頼りなさそうな少年少女だったのはわかります。プラチナ冒険者というのも大した事はないようですな。」 レリオの言葉に私は返す事が出来ませんでした。私の知る限り、プラチナ冒険者とはあの方のように正に敵無しという言葉が体現された者の事を指すと思ってしまったからです。ユウ様からはそれが感じられないのも確かでした。 洞窟内部は予想以上に広く、私達聖教騎士団は近接戦を得意とするレリオを含む四名を前衛として、私を含む残りの八名を前から三、一、四名の隊列を組んでいます。私は後衛三列の真ん中でした。 洞窟も中枢に入り、ゴブリン達も集団行動をする個体が増えてきましたが、今の所は危なげなく対処できています。 ですが、中枢もそれなりに進んだ所で変化が訪れました。 「セシリア様。この洞窟、地下へ向かっているようです。緩やかな坂となっていますが、先が暗く見えません。ここは、斥候を送るべきかと。」 私には、戦略や戦術といったことに関しては無知も同然です。ここはレリオの判断に委ねた方がいいでしょう。 「レリオに一任します。ここまで、囚われた村の方達も見当たりません。斥候に行かれる方に無理のない範囲で探ってほしいのです。」 「わかりました。…ダル、エマ。お前達、先行して様子を見てくるんだ。我々はセシリア様の体力の事を考慮して、一度休息を取る。無理はするな。」 「「はっ!」」 ダル様とエマ様はそれぞれ、前衛を任されていた団員です。お二方共、副長として腕前も判断力もある方達なので、安心して任せる事ができます。 そうして、辺りを警戒しながらも暫しの休息を斥候の方達を待ちながらするのでした。 斥候のダル様とエマ様が帰って来ません。私達は休息を取り出して、三十分が経った頃その異変に動き出しました。 「レリオ。ダル様とエマ様が心配です。私達も参りましょう。」 「セシリア様もそう思いますか。俺の騎士団の中でもあの二人は手練です。俺の予想より数分の遅れならまだしも流石に遅すぎます。」 どうやら、レリオも私と同意見のようでした。私達は隊列を組み直し、地下へ続く坂道を進む決断を下して歩きだしました。 レリオの言ったように、地下へ続く坂道は暗く私は魔法を使い明かりを出しました。白く光る球状の明かりを頼りに坂道を進んでいくと明かりのある場所に辿り着きました。そこで、私達は衝撃の光景を目にすることになったのです。 「な…なんだ…これは…」 「っ………」 思わず息を呑むとはこの事だったのでしょう。あまりの衝撃的な光景に、私は声を出せませんでした。 洞窟の内壁に打ち込まれた松明の明かりが淡く辺りを照らすその場所は、開けた場所になっていて、小さな広場になっていました。散乱する骨、そして天井から吊るされた死体の数々、それに錆び付いた剣を突き立て解体するハイゴブリン。 視覚から様々な情報を手に入れていくと、一つの死体が目に入りました。驚きの表情をしたまま亡き者となったその死体は、見覚えのある顔でした。受け入れたくないという気持ちとは裏腹に、頭の中はアレはダル様だと告げます。声にならない悲鳴をあげる中、レリオの声でこちらに気づいたハイゴブリン達が迫ってきました。 ゴブリンと比べると、やや大柄になり細々とした体付きには肉が付き筋肉量が増えているのがわかります。醜悪な顔は下卑た笑みを浮かべ、こちらを伺っています。そのハイゴブリンと目が合った時、言い様のない悪寒に晒され一気に現実へと意識を引き戻されました。 「レリオッ!彼らを弔うのは後に!今は魔獣を倒すことを優先しましょうッ!」 「ッ!お前達!隊列を崩すな!ハイゴブリン共は四体!充分に対処可能だ!」 「「「「はっ!」」」」 さすがは騎士長です。咄嗟の判断が私より的確でありがたいです。皆さんの戦闘態勢を整える姿を横目に、私は吊るされた遺体に注意を払いつつ魔法を放ちます。 「浄化の光よ、彼の者を撃ち貫けッ!聖なる法撃(ホーリー・カノン)!」 「セシリア様に続けッ!!」 私の放った魔法は、白い光線となりハイゴブリンの胸を貫きました。ですが、それだけでは倒れません。ハイゴブリンは変異前と比べて、その生命力も凄まじいのです。近づかれれば、私などその膂力の前では赤子に過ぎないのです。ならばと近づかれれる前に私は魔法を放ちます。 「裁きの光(ジャッジメント)ッ!」 急速な魔力の消費を感じつつ、発動させた魔法は光の杭となり、ハイゴブリンの頭上からその体を貫きました。さすがのハイゴブリンでも脳を破壊されてしまえば、動かぬ骸となりました。 安堵の息を吐くと同時に、他の方々の様子も見ます。レリオは単身でハイゴブリンを打ち倒したようですが、団員達は複数人で残りのハイゴブリンを倒したようです。これで、この場の魔獣達は処理できました。…変異種であるハイゴブリンが四体。これで終わりであれば嬉しいのですが、洞窟はまだ先があるようです。 「セシリア様、遺体を降ろす許可を頂いてもいいですか?」 「はい。もちろんです。安らかに眠れる様、祈りを捧げましょう。」 レリオも大事な部下であるダル様の死に思う所があるようです。いつもは自信に満ち溢れた顔にも影が差しています。私達は全員で吊るされてしまった遺体を丁寧に降ろしていき、並べて寝かせていきます。 浄化の火を放ち、祈りを捧げて彼らに安らかな眠りが訪れることを願うばかりです。 緊張や衝撃から落ち着きを取り戻し始めた私達ですが、新たな疑問と胸騒ぎを覚えてました。 「エマ様はどちらに…?囚われた女性も見当たりません…。」 想像しうる最悪の事態がこの先にあると、脳内で警鈴が鳴り響きました。
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