淫魔VS罪獣

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淫魔VS罪獣

霧になって消えた淫魔はまだ、姿を現さない。今のうちにと思って、エミール君を見る。現状に驚きつつも、残っていたゴブリン達を倒して結界の周りを守っていた。 結界の中では、セシリアもレリオも少し休めたのが良かっのかだいぶ落ち着いているようだった。この様子なら大丈夫。これからこの場はかなり危険な場所になるから逃げてもらいたい。レリオやエミール君ならまだしも、体を鍛えていないセシリアや戦えない保護された人達は危ないからね。 「エミール君、これから結界を解くからなるべく急いでこの洞窟から出てほしい。」 エミール君はゴブリンが殴ってくるのを後ろに跳ぶことで避けて、着地と同時に踏み込んでゴブリンの首をブロードソードで刎ねる。今ので近くに居たゴブリンはだいたい片付いて、それを確認したエミール君はわたしに向かって頷いた。 「四方結界解除」 頷いたのを見たわたしは、すぐに結界を解いた。淫魔がいつ実体化するのかわからないから、早く逃げて欲しい。誰かを守りながら戦うのは難しいからね。 「聖女様、騎士長殿!ユウの言う通りに!洞窟から出ましょう!」 「クソッ!冒険者などに助けられるとはッ。」 「エミール様!それではユウ様が!あの方をまた一人で戦わせる気ですかッ!」 レリオはいつものプライドの高さから悔しそうな顔をしている。てか、レリオよりセシリアだよ。なんか正体バレてない?なんで? とか、暢気に考えてると霧になっていた淫魔が集まりだした。わたしはすぐに魔力ではなく、妖力を全身に纏う。黒い稲妻のようなものがわたしの全身をバチバチッとはしってる。 実体化した淫魔はこの場から去ろうとするエミール君達を標的として、襲いかかった。 『我が寝床を侵しておいて、タダで帰れるなど片腹痛い!ここで死ぬがいい!』 黒い球体からわたしに攻撃した時のよう棘が伸びる。棘がレリオを襲うけど、わたしは棘とレリオの間に割り込み横薙ぎに蹴りを放つ。棘は妖力にバチッと当たると霧のように蒸散した。 「エミール君。なんでもいいから逃げて。こいつは君達じゃ無理だよ。」 「あ、あぁ!ほら!騎士長殿!聖女様!行きますよ!」 エミール君は多少強引にレリオとセシリアを連れていく。その後を追って、騎士団や保護された人達がついて行く。わたしは、淫魔に向き直って対峙する。 『どこまで邪魔をする女狐。それに、なんだその妖力は。見たことのない色をしている。』 答えなくてもいいんだけど、後ろのエミール君達の時間稼ぎの為にも問答をしていた方が安全かな、と判断して答える。 「それがわかんないだよね。相棒が言うには体質?らしいんだけど。それにしても、なんか禍々しいよねやっぱり。」 妖力。妖怪族特有の力で、魔力に近い力を持つけど、用途は幻術や身体強化などが多い。それで、淫魔と話している妖力の色なんだけど、妖力って基本的に赤いオーラのようなものを纏うことが多い。けど、わたしの妖力は黒くで稲妻みたいな感じ。ちょっと異質だよね。 『ふん。それに魔力や妖力如きで、我に触れらるのもおかしいではないか。我は淫魔、幻惑そのものであり傷付けることも死すらもないのだぞ。』 「あー、それも体質なんじゃないかなぁ…。」 淫魔の存在は実は結構あやふやだったりする。個体数は異常に少ないこの世界に五体も居るか居ないかだと思う。淫魔の言うように、幻であり夢である。本来なら殺すことも触れることもできない存在。その代わりというか、淫魔には強力な攻撃手段がない。外敵がいない為なのかはわからないけど、それでも、こちらは触れることも殺すこともできないのに、一方的に攻撃されれば、それは脅威となる。 まぁ、そんな淫魔になんでお前は触れらるんだって話しだけど体質としか答えられない…。便利な言葉だよね、体質。 『体質、体質となにも答えになってないではないか。詳しく話せ、我の脅威となる者を見過ごすわけにはいかぬ。』 なんでわたしが詳しく話すと思ったんだろう?そんな弱点晒すようなことを話す人達って居ないと思うんだけど…。でも、わたしは話したってどうにもならないし、淫魔なんかに負けるつもりもないので話す。もう少しでエミール君達も出ていけそうだしね。 「仕方ないなぁ。体質って言うか性質?わたしの存在そのものが天敵なんじゃないかな。」 『…何を言う。たかが、女狐ではないか。』 「うーん。説明とか苦手なんだよなぁ…。あ、そうだ。そういえばね、全能神に前に言われたことがあるよ。君の存在を表すなら正しく罪獣だろうねって。」 その言葉に淫魔の雰囲気が変わった。そして、後ろでもう出口に居たレリオやセシリアも思わずわたしを凝視している。 あー、そうか。聖教騎士団にとって罪獣は滅ぼす対象だっけか。神を殺せる存在らしいからねわたし。そんなやつ、神を信仰する人達にとったら害虫以外のなんでもないか。 『……………』 淫魔も警戒の色を強くしただけで、なにかするわけでもないし…。後ろの聖教騎士団は物々しい雰囲気だし…。エミール君と保護された人達は戸惑ってるし…。 なんか面倒くさくなってきた。 「………うん。そろそろ終わりにしよう。」 わたしは押さえ込んでいた力のほんの一部を解放する。妖力を纏った体に魔力を練り合わせて、さらにそこに罪獣としての力、虚無と呼ばれるその力を練り合わせて…… 『ま、待て!なにをするつもりだ女狐!』 「え?なにって、面倒くさくなってきたから悪くて害のありそうな淫魔を消しちゃおうかと思って。」 『待て待て待て!我はここで寝ていただけだ!気に入らないのなら他所へ行く!…ッ!』 妖力、魔力、虚無を練り合わせた身体強化を纏った結果、膨大な力の本流が目に見える形で現れる。結界のようなオーラのようなものがわたしを中心として広がり、その一部が淫魔に触れるとジュワッて音をたてて、黒い球体の一部が消えた。霧にはなってない。 『ぐぅ…。我は去る。厄災の女狐よ。覚えたぞ…。』 そう、言うだけ言って霧となって姿を消した淫魔。なんだか拍子抜けしたけど、一応解析(アナライズ)を使って周辺を探ってみるけどほんとに居ない。え、ほんとに寝てただけの淫魔だったのかな? 考えたところで、淫魔本人は居ないから真実はわからないのでまぁいいかと思考を止める。そして、せっかく練り合わせた身体強化をといて次の問題に向き合う。すんごくめんどくさい。 「エミール君、終わったみたい。聖教騎士団と保護された人達のことありがとね。」 「あ、あぁ。なんだかよくわからないけど、終わったなら良かったよ。」 エミール君とそう言葉を交わすと、やっぱりというかなんと言うか、レリオがすごい剣幕でわたしに話しかけてきた。剣も抜いちゃってる。 「貴様!プラチナ冒険者だかなんだか知らないが、罪獣とはどういう事だ!」 どうしたものかな、と思っていると周りに居た聖教騎士団の人達も抜剣し始めた。ちょっと面倒くさすぎて、イライラしていたわたしはいつもなら絶対しないだろうことを言ってしまった。 「なに?わたしが罪獣だから倒そうって言うの?ゴブリンキングに苦戦しているような君たちじゃ、わたしを倒すなんて無理だよ?わかってる?」 相当、なにかでストレスが溜まってたらしい。睨みつけながらレリオ達に言うと、レリオ達は怯んだ。その態度にさらにイライラしたわたしは余計にプンスカしてやろうと口を開きかけたところで、セシリアが口を開いた。 「待ちなさいレリオ。ユウ様は恩人ですよ。私達の危機に駆けつけ、助けてくださいました。その事実はユウ様が罪獣という事とは関係ありません。剣を納めて下さい。」 「し、しかし!セシリア様!罪獣は我々聖教騎士団の敵です!」 「…もう口を閉じてください。ユウ様は元は人です。理由があって罪獣となってしまった。そして、誰よりも優しいあの方が罪獣となったところで私達に牙を向くことは無いはずです。…そうですよね?ユウジ様。」 む。完全にバレてない?やばいなぁ、フィーナにめっちゃ怒られそう…。
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